研究実績の概要 |
中性子三軸分光器を用いて非弾性散乱実験を行い、NdB4の低エネルギー励起を観測した。その結果、常磁性状態の30 Kにおいて約3 meV付近に明瞭な磁気励起ピークを見出した。比熱測定から得られている30~40 KでのRln4の磁気エントロピー解放と矛盾しないことから、このピークが結晶場分裂に対応する磁気励起であり、NdB4の3つの相転移(T0 = 17.2 K, TN1 = 7.0 K, TN2 = 4.8 K)に関わる2つのKramers二重項間の分裂幅に相当する結晶場励起であるとの結論を得た。すなわち、2つのKramers二重項が約35 Kで擬縮退した擬四重項基底状態の直接観測に成功したといえる。 また、先に測定したNdB4の粉末中性子回折データの磁気反射に対して新たに群論的な解析手法を適用し、高温中間相(相II: TN1 < T < T0)の磁気構造モデルの再構築を試みた。磁気構造の対称性を規定する伝播ベクトルq = (0, 0, 0)の制約下で、常磁性状態の空間群P4/mbmにおけるネオジム(Nd)の4gサイトに対して群論的な表現解析を行った結果、正方晶c面内に磁気モーメントを持つ独立な既約表現8つの配列のうち、ただ2つ(Γ4: all-in/all-out型, Γ2: vortex型)の線形結合で磁気反射がよく説明でき、かつ、磁気構造が一義的に決まることを新たに見出した。 このモデルに基づき、改めて粉末中性子回折データを用いて相IIの磁気構造解析を行った結果、相II内でΓ4構造、Γ2構造の結合比が温度変化し、主要なΓ4構造と何らかの理由で誘起される付加的なΓ2構造の両方が確かに存在することが明らかとなった。すなわち、解析に用いた粉末中性子回折データの実験精度では、磁気八極子を仮定せずとも磁気双極子秩序だけでq = (0, 0, 0)の磁気反射強度を説明し得ることが判った。
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