研究実績の概要 |
T0 = 17.2 K, TN1 = 7.0 K, TN2 = 4.8 Kの多段相転移を示し、幾何学的フラストレーション(GF)が生じるシャストリー・サザーランド格子(SSL)と等価な構造を含む正方晶NdB4において、粉末中性子回折実験と空間群の表現を用いた磁気構造モデルの再構築を通して、未解明だった高温中間相(II相, TN1 < T < T0)の秩序状態、秩序変数を明らかにした。
磁気構造および秩序変数を決定するために、新たに群論的考察を用いた磁気構造モデルの考察を行い、II相で観測された磁気散乱が、正方晶ab面内のNdの静的磁気モーメントによる秩序構造を仮定することでよく説明できることを示した。可能な磁気構造は群論的に12個に絞られ、さらに(i)強磁性成分が存在しない、(ii)磁気モーメントはab面内のみ、(iii)磁気モーメントの大きさはすべて一定、の3つを制約条件として課すと、4つの既約表現(Γ2, Γ4, Γ6, Γ8)の基底ベクトルで表現される反強磁性構造とその線形結合だけが残る。これらはSSLに伴うGFにより、その磁気的交換相互作用としてはエネルギー縮退している。強度解析の結果、すべての磁気散乱がノンコリニアな二つの反強磁性構造、すなわち、Γ4(all-in/all-out)型の主成分とΓ2(vortex)型のわずかな付加成分の線形結合で一意的に説明できることを見出した。
我々は、NdB4の多段相転移には、1)磁気相互作用の優位性を抑制する幾何学的フラストレーションの効果、2)ノンコリニア磁気構造と四極子秩序を安定化させる四極子相互作用、この二つのどちらもが必要な要素であることを示し、SSLから生じるGFに伴う縮退を破り、1つの磁気構造が実現するメカニズムの本質として重要であるとの結論を得るに至った。
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