研究課題/領域番号 |
25390139
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び東海事業 |
研究代表者 |
大石 一城 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び東海事業, その他部局等, 副主任研究員 (60414611)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 磁性 / カイラリティ / カイラル磁性体 / 中性子散乱 / 偏極中性子 / 小角散乱実験 |
研究概要 |
本研究では、カイラルな結晶構造を持つ磁性体の結晶構造及びカイラルらせん磁気構造のヘリシティを偏極中性子実験により検出し、結晶構造と磁性のカイラリティの結合を検証することを目的としている。今年度は、結晶構造のカイラリティドメインが単一であり、左巻きの結晶構造をとるMnSi単結晶を用いて、結晶と磁性のカイラリティ結合の検証のため、偏極中性子実験を行った。 (1) 実験環境の整備・充実化:数百Åと非常に長い周期をもつカイラルらせん磁気構造の観測及びそのヘリシティの評価のため、J-PARC/MLFの大強度型中性子小中角散乱装置「大観」では、実験環境の整備・充実化を進めている。今年度は、カイラリティのヘリシティの評価のために、偏極中性子実験環境の整備を行った。また、カイラルソリトン格子を観測するために必要な「弱磁場電磁石」の製作を行った。 (2) 結晶構造のカイラリティ及びカイラルらせん磁気構造のヘリシティの検出:はじめに、大強度型中性子小中角散乱装置「大観」の偏極中性子実験装置の特性を確認するため、結晶構造が左巻きのMnSi単結晶を用いて、カイラルらせん磁気構造のヘリシティを観測した。その結果、既存の結果と同様、左巻きのMnSiでは、結晶構造及びカイラルらせん磁気構造共に左巻きであることを確認した。次に、磁化測定の振る舞いから示唆されているカイラルソリトン格子の存在を確認するため、偏極中性子実験を行った。その結果、基本反射の強度に比べ3桁小さい強度の2次の磁気衛星反射の観測に成功した。この結果から、MnSiではカイラルソリトン格子を形成していることが証明された。更に、カイラルソリトン格子のヘリシティは、カイラルらせん磁気構造同様、左巻きであることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究実施計画では、(1)実験環境の整備・充実化及び(2)結晶構造のカイラリティ及びカイラルらせん磁気構造のヘリシティの検出を掲げた。 (1)については、研究計画通り進展した。上記、研究実績の概要で述べたように、弱磁場電磁石の製作及び電磁石オペレーションのための周辺機器(直流安定化電源、制御用PC及び制御用ソフト)の購入を行い、J-PARC/MLF大強度型中性子小中角散乱装置「大観」で使用できるように整備した。 (2)については、おおむね順調に進展している。2013年5月23日J-PARCハドロン実験施設での事故により、J-PARCの運転が約9か月間にわたり停止し、当初予定していたビームタイムが消失する困難の中で、わずかに確保したビームタイムを活用し、左手系MnSi単結晶を用いた偏極中性子実験を行った。その結果、カイラルらせん磁気構造のヘリシティは、結晶構造同様左巻きであることを確認した。更には、翌年度に計画していた(3)カイラルソリトン格子の検出に成功し、初めてMnSiでカイラルソリトン格子が形成されることを確認した。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の研究実施計画では次年度、(3)カイラルソリトン格子の検出を掲げていた。今年度、前倒しをして、MnSiにおいてカイラルソリトン格子が形成されていることを偏極中性子実験により確認した。一方、カイラルソリトン格子の周期が、磁場の増加により連続的に変調することが示唆されていることの検証は、次年度の研究計画である。次年度は、カイラルソリトン格子の周期と磁場の関係を詳細に検証する。 また、右手系MnSi単結晶及びカイラルらせん磁性体CsCuCl3単結晶を用いた、カイラルらせん磁気構造のヘリシティ及びカイラルソリトン格子の存在を検証し、今年度の成果である左手系MnSiの結果と合わせて、カイラル磁性体における「結晶構造と磁性のカイラリティ結合」を検証する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
J-PARCハドロン事故により、計画していたビームタイムがキャンセルされたことを受け、偏極中性子実験用試料ホルダーの必要数が、当初計画していた数よりも少なく済んだため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、次年度実験を行うための試料ホルダーの製作費として使用する。
|