研究課題
本研究では、カイラルな結晶構造を持つ磁性体の結晶構造及びカイラルらせん磁気構造のヘリシティを偏極中性子実験により検出し、結晶構造と磁性のカイラリティの結合を検証することを目的としている。平成26年度は、CsCuCl3単結晶を用いて偏極中性子回折実験を行った。CsCuCl3はカイラルな空間群に属し、らせん磁気構造を形成するため、カイラルらせん磁気秩序の形成が期待されている。しかし、通常の単結晶育成方法では右手系と左手系の結晶が混在したラセミ双晶が形成されるため、過去の偏極中性子回折実験では統一的な見解が得られていなかった。連携研究者の高阪氏による独自の結晶育成手法によりCsCuCl3結晶のカイラリティを単一化することに成功し、更にはcmサイズの大型単結晶育成に成功した。結晶構造が右手系のCsCuCl3単結晶(空間群 P6122)を用いて、J-PARC物質・生命科学実験施設にある中性子小角・広角散乱装置「大観」にて偏極中性子回折実験を行った。その結果、入射中性子のスピン偏極方向の反転に伴い磁気衛星反射強度も変化することから、右手系単結晶の磁気構造は、結晶構造と同様に右巻きらせん構造を有することを観測した。また、4f電子がらせん磁気構造を形成するカイラルな結晶構造を有するYbNi3Al9のカイラルらせん磁性の検証実験も進行中である。
2: おおむね順調に進展している
昨年度のMnSiにおけるカイラルらせん磁気構造のヘリシティの観測及びカイラルソリトン格子の検出・観測に続いて、今年度はCsCuCl3単結晶試料を用いた、カイラルらせん磁気構造のヘリシティの検証実験を行った。更には、3d電子系物質に比べてジャロシンスキー・守谷相互作用が強くらせん周期が短くなっている4f電子系カイラルらせん磁性体YbNi3Al9単結晶を用いた実験も順調に進行している。
今年度行ったCsCuCl3単結晶試料を用いた実験では、カイラルらせん磁気構造のヘリシティの検出を行えた一方で、磁化率測定から示唆されているカイラルソリトン格子の検出は実施できなかった。カイラルソリトン格子の存在を示す磁気衛星反射の強度は、基本反射強度の3桁落ちと非常に小さい。今回の測定では、中性子小角・広角散乱装置「大観」のバックグラウンドレベルに磁気衛星反射が埋もれてしまった可能性がある。磁気衛星反射の強度を稼ぐために、より大きな試料を準備する方法が考えられるが、既にcmサイズの大型単結晶を用いているため、これ以上大きな単結晶を準備することは厳しく、装置側のバックグラウンド低下の改善を試みる必要がある。今年度、もう一つの対象物質として、3d電子系物質に比べてジャロシンスキー・守谷相互作用が強くらせん周期が短い4f電子系カイラルらせん磁性体YbNi3Al9単結晶を用いた実験を開始し、順調に進行している。来年度は、NiサイトをCuで置換した系についても実験を発展させていく。
予定していた海外出張がキャンセルとなったため、次年度使用額が発生した。
2015年7月にスペインで開催される第20回国際磁性会議にて、本研究成果を口頭発表することが決まっているため、国際会議への出張旅費として使用する。
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JPS Conference Proceedings
巻: 8 ページ: 036008/1-6
http://dx.doi.org/10.7566/JPSCP.8.034006