研究課題
本研究では,酸素欠損型ペロブスカイトのコバルト酸化物Sr3RCo4O10.5(R=Y,ランタニド)において高い温度での強磁性(フェリ磁性)の起源を明らかにするために,結晶および磁気構造解析の観点から,放射光X線回折および中性子回折実験を相補的に行っている。粉末回折実験からは,対称性の議論と平均構造における最適化によって磁気構造モデルの構築を行ってきた。しかしながら,粉末回折実験では,原子の座標や占有サイト,磁気モーメントの大きさや向きなど構造パラメータが非常に多く初期モデルの任意性が避けられなかった。このため,より高いS/Nや3次元変調ベクトルの決定が出来る単結晶法での実験および解析に取り組んだ。単結晶構造解析では双晶の問題を解決する必要があり,X線回折実験で得られたデータに各ドメインからの強度を定量的に見積るため2次元検出器でのプロファイルフィッティングによる強度積分を導入することで解析精度を上げ,eg軌道秩序に伴うヤーンテラー歪みとスピン状態の違いを反映したCo酸素八面体の体積の違い観測することを試みている。一方,磁気構造を決めるために,高温相,中間相および室温相での単結晶中性子散乱実験を行うためのJ-PARC/MLF/BL18での高温試料環境の整備を進めてきた。室温相では,磁気散乱ピークと核散乱ピークが重なることが予想されるため,高温相および中間相とのデータ比較による情報の抽出を計画していたが,MLFの運転停止によって高温装置の特性試験が進まなかった。このため,室温フェリ磁性の複雑な磁気構造を決定するためにはX線回折から得られた信頼性の高い構造パラメータからの核散乱の強度の見積りも必要不可欠であることから,X線単結晶構造解析を優先的に行った。
3: やや遅れている
これまでの粉末回折実験データを詳細に解析することで,対称性の議論と平均構造による磁気構造モデルの最適化を行い,これらの成果は学術雑誌に発表した。一方,研究計画全体では,酸素欠損の秩序-無秩序転移および強磁性転移における構造変化を明らかにするために,高温領域での単結晶中性子散乱測定をJ-PARC/MLF/BL-18で行うことを予定していたが,MLFの中性子源不具合による予定外の運転停止によりオンビームでの高温装置のコミッショニングの実施ができず,研究に欠かせない中性子散乱実験に遅れが生じている。
遅れが生じた分を,一年間の延長により計画に沿って研究を推進していく予定である。特に中性子用高温装置の特性試験を早目に実施し装置の最適化を行うとともに,高温相,中間相と室温相での単結晶中性子散乱実験を行う予定である。また,X線単結晶構造解析の信頼性を上げるためには,従来の強度積分の計算方法では十分な精度が得られず検討が必要となっている。粉末回折データから得られた結晶構造と比較しながら問題の解決を図り,磁気構造の決定に繋げる予定である。
2015年度に中性子実験のための試料環境として高温装置を整備する計画で,ヒーターや輻射シールド等の適正について装置の特性試験を行った結果をもとに改良点を検討し制作する予定であったが,MLFの運転停止により実際に中性子ビームを使用しての検証が滞ったことから導入が遅れた。
2016年度でヒーターや輻射シールド等の特性実験を行い,中性子実験のための最適化を検討し装置の改良する予定である。
すべて 2016 2015
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