研究課題/領域番号 |
25390142
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
志岐 成友 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測フロンティア研究部門, 主任研究員 (50342796)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 検出器 / X線 / 超伝導トンネル接合 / MEMS |
研究概要 |
微細加工されたSi単結晶を吸収体とする超伝導トンネル接合(STJ)検出器を開発し、X線吸収分光法に革新をもたらすことを目的としている。目的実現のため、STJ検出器を形成したSi基板に微細加工を施す技術、Si基板に施す加工がSTJ検出器に与える影響の評価を行う。H25年度の目標は(1)アニール特性の評価、(2)Si単結晶を吸収体とするSTJ検出器の試作、(3)Si単結晶を吸収体とするSTJ検出器の評価、の3つであった。(1)アニール特性評価:Siを加工する際にSTJに熱が加わり、性能が劣化することが懸念されたため、アニールによる特性変化を測定する計画であった。同様の加工を行った際にSTJにダメージが見られないことが、埼玉大学のグループにより2013年秋の応用物理学会に於いて報告されたため、この項目はスキップした。(2) 試作:微細加工されたSi単結晶を吸収体とするSTJ検出器の作成に成功した。既に高性能のX線検出器として動作することが検証されたSTJチップを用いる予定であったが、このチップは裏面が梨地でSi深堀加工に適さなかったため、両面研磨Si基板を購入し、AISTのCRAVITYに於いてSTJを作成し、NIMSの微細加工プラットフォームに於いてSi基板への深溝加工を行った。(3) 評価:歩留まりは初回の試作では7割で、3割の素子には断線が見られた。断線の原因は、冷却時のストレスにより深溝加工部分に亀裂が生じ、その亀裂が成長したことであると考えられる。X線(Mn-Kα, 5.9keV)に対するエネルギー分解能は最良の素子で135eV FWHM であった。2回目の試作では亀裂が成長しにくいよう溝の構造を改めた。歩留まりは9割まで向上した。製作した素子を高エネ研・フォトンファクトリーBL-11Bで使用し、2-4keVでのX線吸収分光に利用できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
素子の試作に成功し、高い歩留りと半導体検出器と同等のエネルギー分解能を実現した。試作した素子はX線吸収分光に用いることができた。今後R&Dを進め半導体検出器を超える分解能が得られれば、すぐに公開できる。
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今後の研究の推進方策 |
検出器の製造技術、及びSi基板への微細加工が検出器特性に与える影響の研究を継続する。製造技術としては、後述する理由のためメタルマスクを利用した加工方法を検討する。検出器に与える影響については、H25年度と同様にエネルギー分解能等の評価を行うとともに、X線照射位置依存性の測定が不可欠であることがわかったため、照射位置を可変とするための機構を整備する。 平成25年度の試作の結果、加工の際に温度が上昇することについては問題がないことが明らかになった。一方、実際に試作・評価を行ったところ、線幅が設計値より広がり、そのことが検出器の特性に悪影響を与えていることが明らかになった。Si基板に形成する溝は、線幅10ミクロン、深さ350ミクロンとしている。リソグラフィーでは線幅は設計通りであるが、エッチングの際にフォトレジストの後退が起こり、線幅が35ミクロンまで広がった。線幅が広がることは吸収体の形状には影響をほとんど与えないものの、検出器の正面からX線を照射すると、スペクトル上に波高が低い連続的な成分(バックグラウンド)が現れた。バックグラウンドが生じる原因は溝の底で吸収されたX線によるものと推察される。溝の底に入射するX線を減らすには、溝の幅を狭くすることが重要である。そこで、フォトレジストに比べて後退が少ないと考えられるメタルマスクを利用して試作を行う。またバックグラウンド上昇の原因を確かなものとするため、位置可変スリット(消耗品)を購入して照射位置による検出器応答の違いを測定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費を効率的に使用したために残額が発生した。 研究計画遂行のための消耗品費として使用する。
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