研究課題/領域番号 |
25390147
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
島 弘幸 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (40312392)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生体模倣 / 形の科学 / 数理デザイン / 竹 / カーボンナノコイル / ナノ力学 |
研究実績の概要 |
生体模倣の視点に基づく新規スマート材料の数理設計を目的として、平成26年度の研究では主に、竹が生来的に獲得する最適円筒構造の自己形成メカニズム解明を図った。竹が有する高い力学的強度と柔軟性は、横架材の役目を果たす「節」の存在と、竹稈内側に存在する維管束鞘の傾斜分布に起因すると予測される。こうした竹の厚さや節間隔を模倣することで、中空円筒構造の最適補剛理論を提案するとの着想から、観察・理論・実験を跨ぐ複合型研究を実施した。具体的には、長野県中野市で自生する孟宗竹の形態を実地調査し、根本から先端に至るまでの節間長・稈直径・肉厚の長手方向変化を調べた。さらに、胸高・根本における節間長と稈直径を延べ100本以上の竹に対して測定し、各量間の相関有無を調べた。データ解析段階では、構造力学理論から導出される特性指数に注目し、曲げ変形に対する補剛効果と断面扁平抑制効果の度合いを定量化した。その結果、竹の剛性の物理的起源は、地表からの高さに応じて合理的に変化していることがわかった。すなわち根本付近では節間隔を狭めて自重による座屈を防ぎ、中央部では節間隔を広くとって横風や雪の重みに対する変形を許し、先端付近では節から伸びる枝の重みを支える役割を節が果たすのみであるとわかった。さらに竹稈そのものの剛性が、稈内部を構成する繊維の傾斜分布に起因するという理論結果を得た。平成26年度の研究では上記の成果のほかにも、らせん状ナノカーボン繊維の伸張・圧縮過程をリアルタイムで実測し、その変形に基づく電磁応答変化を電磁波遮蔽素材に応用するという生体模倣ベースの理論解析を実施し、遮蔽効果の推算に必要な基礎理論を整備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の実施内容として計画していたテーマを順調に遂行することができたことに加え、そのから派生した竹稈形態に関する発展的な新規テーマを樹立・遂行することができた。当該研究に係る成果は7件の原著論文(全て査読あり)および2件の単行本(どちらも洋書、うち1件は単著)として発表することができた。加えて国内外での学会発表10件を行った。
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今後の研究の推進方策 |
カーボンマイクロコイル(以下、CMC:Carbon Micro Coilと略記)の研究ステージにおいては、垂直配向CMCを直接合成するための実験手法を新たに提案し、国内研究者の協力をえて実験設備を試作する。具体的には、基板上に石英微粒子を配列し、微粒子間の隙間からCMCを自立配向成長させる。垂直配向CMCやそのアレイ構造は当該分野においてこれまで先行研究例がなく、その学術的な意義は極めて大きい。さらに合成したCMC垂直アレイをエラストマー母材に埋め込み、電磁シールド材料の試作とその性能評価を行う。形状パラメータ(長さ・コイル径・数密度など)の異なる様々な試作品に対してGHz領域の電磁波を入射させ、その電磁吸収能と周波数帯域との相関関係をプロットする。さらに、エラストマーに外力を与えて内部のCMCを変形させ、この変形に伴うインダクタンス変化と電磁波吸収能変化を系統的に測定する。 高強度・中空円筒構造の数理デザインにおいては、カーボンナノチューブにを記述するナノ力学理論と、竹稈の力学特異性を記述するマクロ力学理論の、双方テーマを複眼的に遂行する。前者では分子動力学法を基礎として、不可避的に系内に散在する原子空孔が、外力下での座屈現象に与える効果を精査する。さらに講後者の研究では、竹稈を含む動植物一般のアロメトリーを広範に捉えた生体模倣デザイン研究を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時点の計画内容から派生して考案した「竹稈形態調査とそれに基づく生体模倣デザイン」という興味深い研究テーマに着手し始めたため、予算執行に関して軽微な変更が必要となった。また炭素ナノ構造の理論解析については、計算コードの大幅な改善に伴い従前の低スペック機器でも解析遂行が可能となったことから、新規設備の購入を要さず若干の未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
配分額内の未使用部分は、竹稈の実測調査とその数理解析に必要な解析機器の整備、および海外での学会発表を充実させ国内外研究者との交流機会の強化に充てることとしたい。
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