最終年度の研究では、力学的に柔軟な構造と剛性を有する構造を積層させた「柔剛混在型」複合材料について、植物模倣科学ならびにナノ構造物性科学の両観点からその数理設計と物性推算と行った。 まず植物模倣科学のテーマにおいては、自然由来の柔剛混在型複合材料である「竹」を考察対象とした。特に竹の断面を貫く維管束鞘の不均一分布に注目し、これを模倣した超軽量・超高強度パイプ構造の最適設計指針を提案することができた。具体的には、国内に自生する様々な種類の竹について、その稈断面に分布する維管束鞘の傾斜分布を観察・解析し、この傾斜分布を模倣した傾斜機能型・強化シェル材料の最適デザイン理論を展開した。その成果は、複数の学術誌ならびに国内外の学術会合の招待講演で公開した。 次にナノ構造物性のテーマにおいては、sp2型のナノ炭素材料について、その特異な形状物性相関の解明を図った。同材料は、グラフェン面内での非常に強固な原子結合と、隣接グラフェン面の間の比較的弱い分子間力が混在した、ナノスケールの柔剛混在型複合材料といえる。そこで本研究では、炭素ナノコイルの合成実験と原子構造解析を通して、コイル径・コイルピッチを制御した高品質ナノコイルの製造過程と必要条件を整理した。加えて、炭素ナノチューブの塑性変形に関する大規模数値シミュレーションを実施し、動径方向・軸方向からの圧縮力に対する非線形力学応答と座屈モードを詳細に調べた。その結果、同材料の変形モードと電子伝導率特性が強く相関することがわかった。これは同材料の形状変形を積極活用したナノデバイスの開発可能性を示唆するものである。以上の成果はいずれも、国内外の学術専門誌(査読付)に原著論文として公表済である。
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