研究課題/領域番号 |
25390150
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
杉山 勝 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20110257)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 数理工学 / 衝撃波 / 衝撃波面構造 / 非平衡物理 / 圧縮性流体 / 多原子分子気体 / 国際研究者交流 / イタリア |
研究実績の概要 |
衝撃波面内部での粘性流および熱伝導などが伴う非平衡現象の解明に取り組んだ。この研究は衝撃波現象の理解とその応用にとって基礎となる。得られた成果は以下のとおりである。 (A) 多原子分子気体中の衝撃波の内部構造は、分子の内部自由度に強く依存することが実験的に知られている。しかし、この実験結果を説明する満足すべき理論は今まで存在しなかった。本研究において、まず、この実験事実を十分に説明する理論を構築することから取りかかった。いくらかの試行錯誤の後、非常に有望な、拡張された熱力学に基づく理論を構築することに成功した。 (B) この理論が、期待通りの性質を持っているのかどうか検討した。具体的には、希薄な二酸化炭素気体中の衝撃波構造に関する実験結果が知られているため、これと理論的予言との整合性を調べた。実験結果は、マッハ数が1から増加するにつれて、衝撃波構造が対称的なものから非対称なものへと変化し、さらにマッハ数が増加するといわゆるサブショックと呼ばれる構造が出現する。これらの事実を全て一貫して説明することは従来の理論ではできなかったが、新しくわれわれが提案した理論では確かに説明可能であり、実験データとの一致もよいことが確認できた。 (C) マッハ数がさらに大きくなると、非平衡の度合いが強く増大する。このような強い非平衡状態にも適用可能な、非線型構成式の導出を行った。これを用いた衝撃波構造への応用は次の年度になされる予定である。このような、非線型の拡張された熱力学理論は、今まで知られていなかった。 (D) 衝撃波に伴う相転移現象、特に気体相から液体相への転移現象を研究するためには、希薄気体とは違って質量密度が大きくなった場合の気体にも適用できる理論を構築する必要がある。このような理論の構築へ向けた研究も大きく進展した。今後これに関するより深い研究がなされる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初に計画した研究を進める中で、まったく新しい局面が拓けてきたことが大きな理由である。具体的には、以下のような研究成果が得られたことに基づき、「研究目的」の達成度を上記のように評価した。 (A) 希薄な多原子分子気体中に特徴的な衝撃波構造全てを、ひとつの理論で一貫して説明することに、他に先駆けて成功した。 (B) マッハ数が大きく、より非平衡度が大きい場合の衝撃波を解析するための、非線型非平衡理論を、拡張された熱力学により構築することに成功した。このような成果は、この分野で最初になされたものである。この成果により、マッハ数が大きい場合の解析も、高い信頼性をもってなされるようになる。具体的な数値計算による応用などは、来年度の課題として今後なされる。 (C) 濃密な気体中の衝撃波解析に使える理論の構築に着手することができた。具体的には、濃密な気体中の、体積粘性率の微視的あるいはメゾスコピックな起源が明確になり、どのような熱的揺らぎがこの係数に寄与しているのかが明確になった。この成果は、当初の計画では認識されていなかったことであり、当初の計画以上のものが明らかになってきた。この研究により、今後、濃密な気体、あるいは液体中の衝撃波現象の解析、特に、衝撃波誘起相転移の研究が格段に進展する可能性が拓けた。大きなブレイクスルーが期待できる。 (D) 多原子分子気体で見られる、温度のオーバーシュートに関して、非平衡温度の考察を行うことにより新しい解釈を加えることができた。従来の理論および実験をこの観点から再検討することが重要なテーマのひとつである。この研究は、衝撃波の研究のみならず非平衡熱力学理論一般においても、基礎的な研究である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の成果を受けて今年度は以下の項目を研究する。 (A) 希薄多原子分子気体中の衝撃波構造を、前年度に引き続き、詳細に研究する。この際、非平衡温度に関するより深い議論をする。従来までの理論と実験の批判的再検討を行う。非平衡熱力学理論一般の観点からも考察を行う。 (B) 濃密単原子分子気体および濃密多原子分子気体中の衝撃波構造を精確に解析できる新しい理論を完成させる。この理論に基づき、このような気体中の衝撃波構造を、理論的および数値解析的に研究を行う。衝撃波誘起相転移についても理論的および数値的方法で解析を進める。具体的には、剛体球系、ファン・デル・ワールス液体、そしてビリアル展開で表現される状態方程式を持つ気体中の衝撃波について調べる予定である。 (C) いままで、微視的あるいはメゾスコピックな起源が十分には解明できなかった体積粘性率について、熱的揺らぎ論からアプローチする。さらに、いわゆる揺動散逸定理を、拡張された熱力学のレベルで用いることにより、この体積粘性率を理解することとする。この研究は、衝撃波構造の研究に反映されることを考えると、重要な基礎研究である。 (D) 上記(D)とも関連して、拡張された熱力学のレベルから、揺らぎを伴う流体力学理論を取り上げる。とくに、14変数を持つ理論で詳細に調べる。これにより、ナノあるいはミクロ流れの具体的な解析にも着手する。主として数値解析にもとづく研究となるが、理論的解析も並行して進める。 最後に、本年度はこの研究計画の最終年度であるため、この3年間に得られた結果すべてを統一的にまとめ、整理する。そして、残された問題点と今後の研究展望について議論を行い、その成果を公表する。
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