研究課題/領域番号 |
25390154
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
船越 満明 京都大学, 情報学研究科, 教授 (40108767)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 熱対流 / 臨界レイリー数 / 速度場 / カオス混合 / 水面波 / カオス運動 |
研究実績の概要 |
流体を入れた直方体容器のすべての壁が滑りなし条件と完全熱伝導条件を満たし、外部温度場が上方ほど低温の鉛直座標の1次関数の場合には、直方体の高さdと外部温度勾配を用いて定義したレイリー数Rが臨界レイリー数Rcを超えると、熱伝導状態が不安定化して対流運動が発生することが知られている。本研究では、修正されたチェビシェフ多項式系に基づくガラーキン・スペクトル法を用いて、直方体容器の2つのアスペクト比Ax=Lx/d, Ay=Ly/dのさまざまな値に対してRcの値を高精度で求めた(Lx,Lyは容器の水平方向の辺の長さ)。とくにAx=Ay=AであってAが4より大きい場合の速度場が、軸が必ずしも側壁に平行でない多数の対流セルからなる複雑な幾何学的構造をもつこと、および、それらの多くが先行実験の結果と整合性があることを示した。さらに、R=Rcで発生する対流運動の速度場の下での流体の微小部分の運動の軌跡を高精度で調べ、アスペクト比の値にかかわらず、この軌跡が閉曲線あるいはヘテロクリニック軌道に限られており、カオス的な流体運動やそれによる効率的な流体混合は見られないことがわかった。この結果は、速度場が空間の3方向にいずれも対称性をもっていることと深くかかわっていると予想される。実際、容器を水平方向から2方向に傾けたときのR=Rcにおける速度場では、上記の対称性は存在せず、また流体の微小部分のカオス運動が見られるので、この予想と整合性がある。また、容器の水平方向の共鳴的楕円運動によって励起される水面波についても弱非線形理論に基づいて調べ、容器と同方向あるいは逆方向に回転する水面波が存在するようなパラメータ領域を求めた。さらに、波の運動がカオスとなるようなパラメータ領域を求めた。これらの規則的あるいはカオス的に時間変化する速度場は、速度場と流体混合の関係を調べる上で重要な具体例になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
さまざまなアスペクト比に対して、臨界レイリー数Rcの値とレイリー数RがRcに等しい場合における速度場を高精度で得ることに成功し、比較的大きいアスペクト比における速度場の複雑な幾何学的構造を明らかにすることができた。また、容器が水平方向から2方向に傾いている場合についても計算を行ってR=Rcにおける速度場を求め、速度場の対称性が減少するとカオス運動が可能となることを示唆する結果を得た。また、共鳴的加振によって励起される水面波の研究において、周期的あるいはカオス的な時間変化をする速度場を求めることができた。これらの速度場は、今後速度場と流体混合の関係を調べる上で重要な具体例になると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
レイリー数Rが臨界レイリー数Rcよりも大きくなると、熱対流の支配方程式の非線形性が効いてくるようになり、それに伴って熱対流の定常速度場の対称性が変化する。このことが流体の微小部分の運動のカオス化をもたらす可能性があるので、非線形性を入れた支配方程式の定常対流解の速度場を数値的に高精度で求め、それを基に流体のカオス的熱対流運動の発生メカニズムを調べるとともに、熱対流による流体の効率の良い混合の可能性について調べる。また、容器を水平方向から傾けることによってR=Rcにおける速度場の対称性が変わることと、支配方程式が非線形になることによってR>Rcでの速度場の対称性が変わることの、類似点や相違点について検討する。また、共鳴的加振によって励起される水面波の研究において得られた周期的あるいはカオス的な時間変化をする速度場と、それによる流体混合について調べる。
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