流体を入れた直方体容器の壁が滑りなしで完全熱伝導条件を満たし、外部温度場が鉛直座標の1次関数で上方ほど低温の場合には、直方体の高さdと外部温度勾配を用いて定義したレイリー数が臨界レイリー数Rcを超えると対流運動が発生する。本研究では容器のアスペクト比Ax=Lx/dとAy=Ly/dのさまざまな値に対してRcの値を高精度で求めた(Lx,Lyは容器の水平方向の辺の長さ)。また発生する熱対流の速度場の構造・特徴のAxとAyに対する依存性も調べて、とくにAxとAyが近い値であって4より大きい場合の速度場が多数の対流セルからなる複雑な幾何学的構造をもつこと、それらが先行実験と整合性があることを示した。さらに、この対流運動の速度場の下での流体の微小部分の運動の軌跡がつねに閉曲線あるいはヘテロクリニック軌道に限られてカオス的な流体運動は見られず、この速度場の下では効率的な流体混合は期待できないことを見出した。この結果は、速度場が空間の3方向に対称性をもつことと深く関係すると予想される。実際、容器を水平方向から2方向に傾けたときのRcにおける速度場では上記の対称性は存在せず、また微小部分のカオス運動が見られるので、この予想と整合性がある。 次に流体を入れた容器の水平方向の共鳴的楕円運動によって励起される水面波が容器と同方向あるいは逆方向に規則的あるいはカオス的に回転するパラメータ領域を求めた。また容器を水平と鉛直方向に同時に共鳴的に加振した場合の水面波の生成について調べ、大振幅の1次元的なあるいは回転する水面波が生成されて適当な加振振動数ではカオス的に時間変化する速度場となること、水面波や速度場の振舞が水平加振と鉛直加振の位相差に大きく影響されることもわかった。これらの規則的あるいはカオス的に時間変化する速度場は、3次元非定常速度場と流体混合の関係を調べる上で重要な具体例になると考えられる。
|