研究概要 |
先行研究:我々は既に, 任意のクイバー Q と矢印上の重み関数 w に対して Z-代数 UD(Q,w) を導入し, それを研究対象として位置づけている. Q の頂点で生成される Z-自由加群を V とする. UD(Q,w) は Q のパスに沿って誘導される V 上の自己準同型全体で生成される Z-代数のことである. 即ちこの代数にはどの様に Q の頂点がパスによって結ばれているかという情報が十分に反映されている. そこで UD(Q,w) の一般論の整備と, 有限群 G の部分群束から定義されるクイバー QG への応用, および G の複素既約指標から定義されるクイバー Qch への応用が当該年度の研究課題である. この場合に重み関数 wG と wch はそれぞれ部分群の間の指数, および既約指標の間の重複度で定義される. これを踏まえて研究実績の概要は以下の通りである. これらの結果は数学専門誌 Tokyo Journal of Mathematics に掲載予定である. 1.UD(Q,w) を行列代数として表現した場合, 各成分はそれぞれに於いてある整数の倍数となることを証明した. これを UD(Q,w) の生成定数と名付ける. 2.UD(QG,wG) の生成定数は G の位数の約数であることを証明した. 特にそれが G の位数に一致するための必要十分条件は, 対応する部分群 A,B に対して G=AB かつ A∩B=1 となることを証明した. さらにある巾零部分群 A,B に対する生成定数が G の位数を与えるならば G は可解群であることを証明した. 3.Qch に属するパスの重みの性質によって, 可換群 G を特徴付けることが出来た. また UD(Qch,wch) の生成定数は全ての有限群に対して 1 となることを証明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の研究対象である Z-代数 UD(Q,w) の一般的な構造を捉えることが出来た. 特にその構造は特定の定数(生成定数)で決まる事が証明され, これは大きな研究成果であると考えられる. さらに有限群の構造論への応用にも踏み込むことが出来た. 対応する生成定数と関連付けることが出来た可解群や群の factorization は群論の中で極めて基本的な対象である. 加えて有限群の指標理論への応用にも成功した. しかしながら, 複素既約指標に対する生成定数は全ての有限群に対して 1 である, という我々の結果は, 非常に意外なものであった. 実際にその生成定数は様々な値を取り, それらが群の性質に影響を及ぼしていると予想していたからである. 一方, なぜ全て 1 になるのかという純粋な疑問(新たな研究課題)が沸き起こる. さらにこれをモジュラー既約指標に代えて考察した場合に, どの様な結果になるかという興味も出て来る. この様に新しい研究結果が得られたと同時に, 新たな課題が自然に導かれたことで, 本研究は概ね順調であると判断するものである.
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今後の研究の推進方策 |
まずは今回の研究結果から新たに導き出された研究課題を考察する. 即ち, 複素既約指標に対する生成定数は全ての有限群に対して 1 となる, その根本的な理由の追及である. この現象は複素既約指標, あるいは有限群の何を特徴付けているのであろうか? さらにはモジュラー既約指標に対する生成定数も考察する. この立場に立つと先程の 1 はある素数の 0 巾であるという解釈の可能性も出て来る. 何れにしても“研究の流れおよび継続性”をも重視しながら本研究全体を遂行していく. また部分群複体は付随するクイバーを定義する. 即ち, 言い換えれば, 部分群複体の一般化としてクイバーに付随する単体複体を導入することが出来る. つまりパスを構成する頂点集合の部分集合を単体と定義すればよい. そこで今回得られた研究結果と, 幾何学的対象であるこの単体複体との関連を新たな視点として取り入れる. この事により本研究をさらに推進させることが出来ると考えるものである.
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