研究課題/領域番号 |
25400015
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
今野 拓也 九州大学, 数理(科)学研究科(研究院), 准教授 (00274431)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 保型形式 / テータ対応 / L関数 / 周期 / 保型内視論 |
研究実績の概要 |
多変数保型形式,あるいは保型表現の構成方法として局所および大域テータ対応(Howe対応)がある.テータ対応は,Siegel-Weil公式や吉田リフトなどの古典的な例に現れるだけでなく,保型形式の周期に関するWaldspurgerの公式の証明にも用いられた.近年,保型形式の周期を保型表現の内視論による分類で記述するGross-Prasad予想が提出され,そのうち局所的な予想はWaldspurgerとBeuzart-Plessisにより解決されている.これに示唆を受けて,テータ対応を内視論的分類の言葉で記述する予想が出され,ユニタリ群の場合にはこの予想がGross-Prasad予想から従うことがGan-市野によって示されている.2014年5月にはOberwolfach数学研究所で行われた国際集会に参加し,これらの結果についての最新の進展を把握した.
2014年度は前年度までに計算した,明示的な内視論による表現の分類を用いて低次の群の間の局所テータ対応を計算し,その結果を上記の予想と比較することを目指した.その鍵となるのは,前年度に扱ったSL(2)×SO(4)のテータ対応である.これを決定するため,残っていたSO(4)の副二次型表現の内視論的分類を目指した.研究時間が確保できない中,9月から10月にかけて1ヶ月弱,パリ7大学に滞在し,大域的なArthur-Selberg跡公式の計算を行った.その結果,副二次型のLパケットの内部構造には2つの対称な候補があり,内視論ではそのいずれが現れているか決められなかった.その後は情報は落ちるが,SO(4)の代わりにO(4)の表現のArthurによる分類を用いる方向で計算を進めている.
並行して,昨年度行った第21回整数論サマースクール「p進簡約群の表現論入門」の報告集の編集,執筆を平賀郁(京都大),原下秀士(横浜国大)両氏と行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究計画と比較して実施が遅れている原因としては,第一に,前年度に引き続き部局内で引き受けている業務の負担が非常に大きいことがあげられる.学期の内外にかかわらず多くの時間を拘束されるため,計画の際に想定した研究時間の多くを失ってしまった.また臨時の追加業務も発生し,昨年度以上の負担となった.加えて2014年度は教育業務も倍増したため,年度後半の学期中はほとんど研究に従事できなかった.また,業務の一方で授業時間を確保するため,研究連絡や情報交換のために計画していた出張のほとんどを断念せざるを得なかった.
他方,2014年度は九州大学全体での教育カリキュラムの変更に伴い,教務関連のシステムの仕様の大規模な変更があった.これに対応する委員を務めているため,11月と2月のほとんどの期間と3月の後半をその対応に費やさなくてはならなかった.
その他,書籍の執筆などの仕事に時間を取られたこと,例年以上に学術誌の査読を行ったこともあげられる.
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今後の研究の推進方策 |
2015年度はまず,前年度から考察を続けている,O(4)の副二次型Lパケットとそれに属する保型表現の内視論的記述を進めたい.具体的には内視論で与えられる表現の指標の関係によるLパケットの内部構造の記述を用いて,個々の(保型)表現の指標についての情報を取り出すことを目指す.このため,国内の内視論の第一人者である平賀郁氏(京大)を招聘して研究連絡および研究方法の検討を行う. 次にこうして得られる指標についての情報を用いて,GL(2)×GSO(4)のテータ対応である清水対応の,等距群SL(2)×O(4)への精密化を構成したい.2015年度も,学内の業務その他によるエフォートの低下については,前年度まで比べて大きな改善は見られないことが予想される.そのため,研究計画に挙げていた馴分岐表現のFourier係数の研究については研究目標から外すこととし,代わりに荒川リフトなど,これまで部分的な記述しかなかった,非分裂群の間の古典的テータ対応への応用を追求したい.このためにテータ対応やその数論的性質を研究している池田保氏や市野篤史氏(京大),石川佳弘氏らを招聘し,また訪問して,研究連絡および情報交換を行う.特に石川氏とはこれまで進めてきた実ユニタリ群のテータ対応の記述の応用についても討議する予定である. またこれらに現れるL関数値の働きについて,大阪市大に滞在中のK. Martin氏を招聘し,L関数値の専門家としての意見や情報を収集する. 年度の後半には,白馬で行われる保型形式ワークショップや,数理研集会「保型形式・保型L関数とその周辺」に参加して,得られた結果の発表や情報交換に務める. その他,並行して保型表現に関する専門書の執筆も進めるが,このために共著者との編集打ち合わせのための出張を数回予定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額の発生理由は,2014年度も引き続き部局内で担当している業務の負担および拘束時間が想定を大きく上回って増加したことである.それに加えて教育業務も増加したため,研究時間の不足とともに,授業回数を確保する必要が生じ,昨年度の研究計画作成時点で予定していた,研究連絡および情報交換のための国内外への出張のほとんどを断念せざるを得なかったためである.
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次年度使用額の使用計画 |
2014年度に実施できなかった研究連絡および情報交換は,出張に代えて招聘という形で2015年度に繰り越して実施する.2013年度の次年度使用額はこれらの費用に充てる.
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