研究概要 |
量子計算機耐性を持つ数体ナップサック暗号系 OTU2000 の実用化が目的である. この暗号系の鍵を任意次数の数体で効率的に生成する為に, 整数を整数基底で表現した係数の大きさの積による成長の良い評価が必要である. その為, 我々は数体の整数環に (一般には結合法則を充たさない) 新しい乗法★演算を導入してきた. この★演算には適用方法が幾つかある. 今年度は実二次体について最適な★演算適用法を確定し, それを用いた暗号系の強度について解析する予定であった. その為に適切な整数基底 v, w を固定する必要がある. ところが最初に標準基底 v=1, w を用いて計算しているうちに, これは最適ではなく別の良い基底があることに気付いた. そこで最適基底 v, w の理論的確定に専念した. それに予想外に手間取り現在でも何が最適基底か未解決である. 結果として, 今年度予定していた実二次体に対する OTU2000 の安全性評価はできていない. しかしながら, 実二次体の標準整数基底 v=1, w に対しては, 各種の★演算適用法を試し個別の体では最適なものを確定できる. また, それから秘密鍵である素イデアル P を計算し, そのノルムで OTU2000 の暗号文に於る部分和問題の密度を評価できる. ある程度高密度の OTU2000 が得られたものについて, その P による剰余体の乗法群の位数が滑か等の理由で, その離散対数問題が現存する古典計算機で解けて, 秘密鍵から公開鍵が計算できるものも選べる. これらで実際に暗号文を作成し, その部分和問題に対して格子の最短ベクトル問題を解くアルゴリズムを適用し, その暗号文の強度について解析も可能となる. これらは前述の基底選択に没頭していた為まだ系統的な結果ではない. 予定していた海外 (シドニー・ドイツ) の研究者との集中的な共同研究は, 双方のスケジュールが調整できず, 来年度に先送りする事とした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は実 2 次体の OTU2000 を実用化する予定であった. しかし, 研究実績の概要でも述べた様に, 最適整数基底選択の問題が発生した為, それができなかった. これは最適な基底の理論的確定に拘った事に原因があると思われる. そこで現時点では最適整数基底の理論的確定は棚上げしたいと考える. また海外研究者との集中的な共同研究が次年度以降に送られた事も痛手であった.
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今後の研究の推進方策 |
今年度予定していた実 2 次体の OTU2000 実用化を, 次年度予定していた巡回 3 次体の OTU2000 実用化と並行して行う. その際に最適な整数基底や★演算適用は, 理論的に検討するのではなく, 個別の場合にプログラムで最適なものを選ぶ様に変更し, 実践的に解決する. この様に修正すれば, 理論的には条件が異なる実 2 次体と巡回 3 次体も, プログラムに関しては殆ど同様なので並行して扱える.
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次年度の研究費の使用計画 |
予定していた海外 (シドニー・ドイツ) の研究者との集中的共同研究を来年度に先送りした. また学会での成果発表もできなかった. これ等の為に旅費が大幅に予算消化できなかった. そして理論的考察に終始し計算機実験を行えなかった為に物品費その他も予定より支出が少なかった. 外国旅費を, シドニーとドイツに各 1 週間の集中的共同研究, 及び韓国での国際研究集会 ANTS XI への参加, の為に約 70 万円を支出する. また, 国内旅費を学会参加・成果発表の為に約 40 万円を支出する. その他に計算機実験用パソコン・その周辺機器更新やマニュアル・図書の購入, しかるべき学術雑誌に論文として, これらの結果を纏めて投稿する掲載料等に約 45 万円を支出する.
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