研究実績の概要 |
量子計算機耐性を持つ数体ナップサック暗号系 OTU2000 の実用化が目的である. この暗号系の鍵を任意次数の数体 F で効率的に生成する為に, 整数を整数基底で表現した係数の大きさの積による成長の良い評価が必要である. その為, 我々は数体の整数環に, 一般には結合法則を充たさない, 新しい乗法★演算を導入してきた. この★演算には適用方法が幾つかある. 今年度は実 2 次体と巡回 3 次体について, 最適な★演算適用法を確定し, それを用いた暗号系の強度について解析を予定した. それは, 次の各段階からなる: (1) 各種整数基底を選択. (2) 各種★演算適用法を選択. (3) 秘密鍵として F の素イデアル P と整数達を選択. (4) 公開鍵を法 P の剰余体の乗法群の離散対数問題の解から計算. (5) 平文と公開鍵から暗号文を作成. (6) 暗号文と公開鍵から部分和問題を解き平文復号の攻撃. 現在迄に (1)--(5) はプログラムが完成し, ある程度計算データも得られている. しかしながら幾つか欠陥がある. 先ず (4) は乗法群が滑らかな位数の場合に可能で, その様な P の選択に時間がかかる事である. 次に (6) が未完成なために, ランダムに生成した部分和問題等, 既知の部分和問題と難易度 (暗号の強度) が比較できていない事である. 我々の方法による部分和問題は (4) の段階で密度が評価できるが, その密度を必ずしも高くできていない. そこで暗号系の安全性評価には, 少なくとも実験データによる保証が必要である. 予定していた海外 (シドニー・ドイツ) の研究者との集中的な共同研究は, 今年度も双方のスケジュールが調整できず, 来年度に先送りする事とした. 他方で ANTS XI に参加し, また R. Scheidler (カナダ) を招聘し, 関連分野の研究者と情報交換をした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は実 2 次体, 巡回 3 次体の OTU2000 実用化を予定した. 研究実績の概要で述べた通り, 実際に動かすという意味では目的を達成したが, その安全性については十分な保証が得られていない. そこで安全性を評価するための実験を特に重視して行う必要がある. 海外研究者との集中的な共同研究が次年度に見送られた事も痛手である.
|
今後の研究の推進方策 |
今年度やり残した, 研究実績の概要で述べた「(6) 暗号文と公開鍵から部分和問題を解き平文復号の攻撃」を実 2 次体・巡回 3 次体に対して集中的に行う. また純 3 次体, 巡回 4 次体, 純 4 次体など整数基底が比較的判り易い低次の F についても, 同じ問題を考える. 最後に, これ迄に得てきた虚 2 次体 (や有理数体) の場合と比較して, その有用性について総括する.
|
次年度使用額の使用計画 |
外国旅費を, シドニーとドイツに各 2 週間の集中的共同研究, の為に約 70 万円を支出する. また, 国内旅費を学会参加・成果発表の為に約 40 万円を支出する. その他に計算機実験用パソコン・その周辺機器更新やマニュアル・図書の購入, しかるべき学術雑誌に論文として, これらの結果を纏めて投稿する掲載料等に約 55 万円を支出する.
|