今期の研究における成果は、多変数のモジュラー形式に関するテータ作用素のp進的な性質の解明に近づく一連の結果を得たことである。研究の発端は次数が2で重さが35のいわゆる井草のカスプ形式とよばれるジーゲルモジュラー形式が、テータ作用素のmod 23核に含まれているという現象の発見にある。ここでテータ作用素のmod 23核の意味は、そのモジュラー形式にテータ作用素を施すと、23を法として消えてしまうと言う意味である。 この発見の後、重さが12のジーゲルモジュラー形式のなす空間に、同様の性質、すなわちmod 23核に含まれるモジュラー形式を発見することができた。例えばリーチ格子とよばれる24次元のユニモジュラー格子に付随するテータ級数は重さが12のジーゲルモジュラー形式となるが、この形式もテータ作用素のmod 23核の元になっている。研究の目標は、このような現象がなぜ起きるか、その理由を解明すること、すなわちこの現象に現れる「重さ35」と「合同素数23」の間に存在する関係の解明である。これに対してドイツ、マンハイム大学ベッヘラー教授との共同研究により、様々な結果を得ることができた。その成果の一つは次の様に述べられる:次の様な性質をもつn次のジーゲルカスプ形式Fが存在する:Fの重さは重さが(n+3・(p-1))でテータ作用素のmod p核になっている。この一般的な結果をn=2、p=23であてはめれば、冒頭に述べた井草の重さ35のカスプ形式の場合の現象の説明ができるわけである。この期のもう一つの成果としては、上記リーチ格子のエルミート版であるユニモジュラー・エルミート格子に付随するエルミートモジュラー形式で同様の性質をもつものの発見が挙げられる。このエルミートモジュラー形式はテータ作用素のmod 11核になっていることが確認された。以上が得られた成果の主要なものである。
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