研究実績の概要 |
本課題は,正標数の代数多様体とその特異点の構造層などのフロベニウス直像が,代数多様体の大域的・局所的な幾何をどのように反映するかを明らかにするため,累次フロベニウス直像とF爆発列の構造などを研究することを目的として,幾つかの射影多様体と特異点のクラスに対象を絞ってこれらの構造を詳細に研究した.主な研究結果は以下の通りである. 1. 単純楕円型特異点のF爆発列の構造を,標数 p>0 と最小特異点解消における例外楕円曲線 E の自己交点数,および,E が通常楕円曲線か超特異的かによって,完全に決定した. 2. 射影平面を一般の位置にある n 点で爆発して得られる曲面の構造層の累次フロベニウス直像について研究し,とくに n=4 (5次del Pezzo曲面)の場合に,累次フロベニウス直像の直和因子(Frobenius summand)として現れる直既約ベクトル束の同型類とその重複度を決定した.その結果,5次del Pezzo曲面は大域的有限F表現型(GFFRT)であることが証明された.一方,n=10 においては,爆発の中心となる10点を適当にとることにより,GFFRT でない有理曲面が構成できることを示した.GFFRT性を与える n の限界値を知るため n=5 の場合について考察を進めたが,本課題の研究期間中には結論を得られなかった. 3. 上記 2 の5次del Pezzo曲面 X について,(i) X の Frobenius summand のうち,階数2の直既約束 G と直線束6個の計7個のベクトル束からなる導来圏の充満強例外列が存在すること; (ii) 古典的に知られている X の(2,5)-Grassmann多様体への埋め込みにおいて,上述した G の双対束がGrassmann上の普遍商束の引き戻しと一致することなど,X の幾何的な性質との関係を観察した.
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