本研究では、数学分野における古典的な研究対象の一つである凸多面体や有限セル複体の面の個数の研究を行っている。平成26年度は二つの球面の直積の三角形分割に関する研究を中心に研究を行った。 多様体の三角形分割の研究で調べられている重要な性質の一つに、tight性と呼ばれる性質がある。Tight性は‘多様体が与えられた時、その多様体を三角形分割する為に必要な頂点数の最小値を求めよ’という問題を調べる過程でKuhnelによって導入された概念であり、多様体の最小三角形分割と密接な関係がある。1999年にKuhnelとLutzは、閉多様体のtightな三角形分割の頂点数は必ず最小になる、という予想を提唱し、さらに、i 次元球面と j 次元球面の直積の場合には、tightな三角形分割は必ず丁度 i+2j+4 個の頂点を持つ、と予想した。i 次元球面と j 次元球面の直積の三角形分割は少なくとも i+2j+4 個の頂点を持つ事が知られており、後者の予想は前者の予想の球面の直積の場合における精密化となっている。 本年度の研究では、PLモース不等式と呼ばれる幾何学的な観点から得られる不等式と可換環論における次数付ベッチ数と呼ばれる代数的不変量の間に相関関係があることを発見し、これを用いて、次数付ベッチ数を代数的に解析することによりKuhnelとLutzの予想を研究する、という今まで知られていなかった新しい研究手法を開発した。この研究手法により、上記の球面の直積に関する予想を j が i の2倍より大きい場合に肯定的に解決した。さらに、この手法は三角形分割の面の個数の下限の研究にも有用であることが判明し、Barnetteの下限定理と呼ばれる組合せ論の古典的な定理を正規な擬似多様体へ一般化・精密化することにも成功した。
|