本研究では、代数学の一分野である可換環論を用いて、組合せ論の分野において重要な凸多面体やセル複体の面の個数に関する研究を行った。以下が本研究で得られた主要な研究成果である。 平成25年度には凸多面体のcd指数を可換環論を用いて研究する為の新しい手法を考案し、これを用いてcd指数に関する新しい不等式を発見した。また、平成26年度には、PLモース不等式と呼ばれる幾何学的な観点から得られる不等式と可換環論における次数付きベッチ数と呼ばれる代数的不変量の間に相関関係があることを発見し、多様体の三角形分割のtight性に関するKuhnelとLutzの予想を部分的に解決した。これらの結果は、組合せ論的な不変量や性質に対し、可換環論を用いた新しい研究手法を考案したものであり、今後の凸多面体や多様体の三角形分割の研究に大きく役立つ事が期待される。 平成27年度には、オスナブリュク大学のMartina Juhnke-Kubitzkeとの共同研究において、balanced一般下限予想と呼ばれる凸多面体の面の個数に関する予想を解決した。この結果は凸多面体の面の個数に関する重要な予想の一つを解決したものである。また、ワシントン大学のIsabella Novikとの共同研究において、相対単体的複体のスタンレー・ライスナー加群を用いることにより、境界を持つ多様体の三角形分割の面の個数に関する新しい不等式を発見した。境界をもつ多様体の三角形分割の面の個数の研究は、今まであまり進展が無かった研究分野であり、今回考案したスタンレー・ライスナー加群を用いた研究手法は今後の研究に大きく貢献するものと期待される。
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