1.最終年度に実施した研究の成果 有限位数の自己同型射をもつ代数曲線の2次対称積を、その自己同型射が生成する群で割ることにより得られる代数曲面の周期について具体的な計算を行った。これらの代数曲面の一部はある射影多様体に対する接線の多様体の退化として現れるため、接線の多様体の一般的性質を解明するために、まずこれらを詳しく計算をしておく必要があった。また位数が2の自己同型射から得られる代数曲面は古典的なクンマー曲面の一つの拡張である。クンマー曲面がK3曲面のホッジ構造についてのトレリの定理の証明の鍵になったことと同様に、これらの代数曲面を調べることは、より一般の代数曲面の周期を研究する一つの鍵になるものと期待できる。またこれらの曲面の中で小平次元が1であるものについて、周期行列を具体的に表示することにより、そのモーデル・ヴェイユ群の計算を行い、生成元を具体的に表示する例を与えた。 2.研究期間全体を通じて実施した研究の成果 射影空間内の代数多様体に対し、ある重複度の接点をもつ直線全体はグラスマン多様体の部分多様体となるが、これを接線の多様体と呼ぶ。接線の多様体のホッジ構造を具体的に記述するために、接線の多様体をある旗多様体の基本的なベクトル束の切断の零点として表示した。旗多様体の上のベクトル束のコホモロジーの消滅条件を詳しく調べ、ある条件のもと接線の多様体のホッジコホモロジーを具体的に表示する部分的な結果を得た。また3次超曲面などの特別な射影多様体に対し、その接線の多様体の周期写像を具体的に記述することも課題の一つであったが、ある退化3次曲面に対する接線の多様体に対して成果を得た。具体的には、その周期積分の値の数論的性質と接線の多様体のピカール数の変動の関係を記述する成果を得た。そしてこの計算は、上記の最終年度の成果にまで拡張された。
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