本年度は3年間の研究総括を行い、H28年度の数理解析研究所における研究集会において「ウルリッヒ加群とイデアル」に関する入門的講演を行うための準備を行った。概要について述べておく。古典的なウルリッヒ加群はゴレンシュタイン性を極大コーエン・マコーレー加群を用いて特徴づけるためにウルリッヒにより導入された加群のことであり、極小生成系の個数が極大イデアルに関する重複度に一致することで定義される。ウルリッヒ加群の極小自由分解は各写像を行列で表現するとき、1次の元で表現されるという特徴的な形をしており、線形コーエン・マコーレー加群とも言われる。古典的なウルリッヒ加群がどんなCM環においても存在するというウルリッヒの予想が知られているが、多くの場合は未解決である。研究代表者は中嶋氏との共同研究により、2次元の巡回商特異点の場合にその構造定理を与えた。本研究に先立ち、研究代表者は後藤四郎教授らと共にウルリッヒ加群の概念を拡張することに成功し、極大イデアルに付随する一般のイデアルに関するウルリッヒ加群の研究を開始した。さらに、対応するイデアルに注目することにより、ウルリッヒイデアルの概念に到達した。ウルリッヒイデアルは良イデアルの一種であり、幾何的にとらえることができる。この視点から、研究代表者は奥間智之氏、渡辺敬一氏と研究を良イデアルの研究をスタートさせ、H27年度もその研究に時間を割いた。 ウルリッヒイデアルの研究において、研究代表者が得た最も重要な成果は2次元の有理二重点におけるウルリッヒ加群、ウルリッヒイデアルの完全分類であるが、その高次元化はまだ論文の形で成果発表はしていない。次年度以降の課題である。
|