研究概要 |
本研究の目的は,almost Gorenstein環論を必ずしも解析的不分岐ではない1次元局所環に対し展開しつつ,高次元の定義を模索し,almost Gorenstein局所環と次数環に関する基盤的な理論を構築することにある。Almost Gorenstein環論の高次元化には,Ulrich加群とUlrichイデアルの理論が不可欠であるので,Ulrich加群とUlrichイデアルの構造解析も併せて研究課題としている。平成25年度は下記2課題に取り組み,主に課題(1)の解決を目指した。 課題(1) 高次元の局所環に対するalmost Gorenstein 環の定義を提案し,基礎理論を整備する。 課題(2) 高次元の次数環に対しalmost Gorenstein環を定義し,基礎理論を展開する。 海外における研究の進捗状況把握のため,7月にLuminy(フランス)で開催される研究集会に出席し,講演を行った。8月に広島大学で開催された代数学分科会シンポジウムで,成果の発表を行い,12月初旬に京都大学数理解析研究所で開催される第35回可換環論シンポジウムで講演を行い,成果の発表とともに,国内における可換環論分野の研究の進捗状況掌握に努めた。12月中旬にHanoi(ベトナム)で開催された国際研究集会にorganizerの一人として出席し,講演を行った。以上の成果は下記2論文に公表しておいた。 [1] S. Goto, N. Matsuoka, and T. T. Phuong, Almost Gorenstein rings, Journal of Algebra, 379 (2013), 355-381, [2] S. Goto, K. Ozeki, R. Takahashi, K.-i. Yoshida, and K.-i. Watanabe, Ulrich ideals and modules, Math. Proc. Camb. Phil. Soc. Cambridge University Press, 156 (2014), 137-166.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文[1]によってalmost Gorenstein環の理論を必ずしも解析的不分岐ではない1次元局所環に対し展開することに成功した。高次元の定義を推定し,almost Gorenstein局所環の基礎理論を構築する作業も,これまでに一定の成果が挙がっていて,内容の一部は論文[3]として提出済である。Ulrich加群とUlrichイデアルの理論構築も部分的に論文[4]として提出済であるなど,研究は計画通り順調に進行している。 [3] S. Goto, R. Takahashi, and N. Taniguchi, Almost Gorenstein rings - towards a theory of higher dimension, Preprint (2014), [4] S. Goto, K. Ozeki, R. Takahashi, K.-i. Watanabe, K.-i. Yoshida}, Ulrich ideals and modules of two-dimensional rational singularities, Preprint (2013).
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は,次の課題の完成を目指す。 課題(2) 高次元の次数環に対しalmost Gorenstein環を定義し,基礎理論を展開する。次数環がalmost Gorensteinであるための適切な定義の発見と判定法の開発に従事する。 課題(2)については,研究代表者と研究分担者居相真一郎氏の間に,先駆的研究 [5] がある。次数環に対するalmost Gorenstein性の定義の有力な候補(未完成である)が論文[3]で既に得られているので,居相真一郎氏と共にこれを検討し,almost Gorenstein 次数環論を世に問いたいと考える。課題(2)は,既成のCohen-Macaulay環論から離れ,非Gorenstein Cohen-Macaulay環解析に新機軸をもたらすものとして,波及効果が期待される。代数学分科会シンポジウムと第36回可換環論シンポジウムなどに出席し,関連する課題の研究の進捗状況の掌握に努める。研究分担者の居相真一郎氏とは,6月と10月に相互訪問を行い,直接顔を会わせた研究打ち合わせを行う。 [5] S. Goto and S. Iai, Embeddings of certain graded rings into their canonical modules, J. Alg.,2 28 (2000), 377-396.
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