モーデル・ヴェイユ格子の総合的研究の最終年度として、主に次のテーマを研究した。 1.1970年代のブリースコーンによる有理2重点の同時特異点解消と、グロタンディークによるそのリー群構造論に基づく予見を、具体的に実現する族として、有理楕円曲面の E8-型乗法的卓越族等を再考した。モーデル・ヴェイユ格子を通して、特異点の消失サイクルが、楕円曲面の切断の「消失ルート」として捉えられる、即ちハイト2の切断(ルート)が消失する(ゼロ切断になる)とき、退化で生じる特異ファイバー・特異点が定まり、同時にモーデル・ヴェイユ群の構造が変化する模様が記述できる。この仕組みが、対応する単純リー群の極大トーラスへのワイル群の作用と関連付けられ、ワイル群の基本不変式としてリー群の基本指標が現れることにより、モーデル・ヴェイユ格子という本来ディオファンタス問題から出発した主題が、格子理論や代数方程式論との関わりを超えて、リー群(環)の表現論とも密接な関係をもつことが明らかになった。この結果は昨秋ハノーバー大学で、そして今年3月米国ジョンズ・ホプキンス大学で講演した。詳細はモーデル・ヴェイユ格子について、永年共同研究をしてきたハノーバー大学のシュット教授と準備中の著書において発表の予定。 2.島田伊知郎教授(広島大学)との共同研究において、次の結果を得た。「フェルマー4次曲面とK3曲面として同型であるが、射影変換では互いに移らない非特異な4次曲面が存在すること」は、最近デグチャレフ等が発見した事実であるが、これをより明確に確立するために、この新たな非特異4次曲面(Yと呼ぶ)について、その定義方程式を決定し、さらにフェルマー4次曲面(Xと呼ぶ)から曲面 Yへの具体的な同型写像を与えた。なお、X、Yに含まれる直線の個数は、それぞれ48本、56本であるので、両者は射影変換では移り得ない。
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