研究概要 |
本研究は, 複素数体上定義された非特異射影曲面のうち, 非超楕円曲線を一般ファイバーとするファイバー空間の構造をもつものを対象としている. そのような曲面の大部分は一般型, 即ち小平次元が2に等しく, さらにそのうちの多くが標準曲面、即ち標準写像が像の上への双有理写像である, という性質を持つ曲面になる. 我々の研究の目的は, このような曲面たちについてその構造を精密に調べることである. ファイバーの種数は3以上のすべての値のものに対して研究を進めるが, 最初は値の低いものから始めていく. 種数が3の場合は多くの結果が得られているので, 我々は種数が4の場合から始めることにした. 25年度は、(1) 種数が4, 階数が3である非超楕円曲線を一般ファイバーとする非特異射影曲線上のファイバー空間に対して, それに含まれる退化ファイバーの堀川指数が矛盾なく定義できることを証明すること, (2) 種数が4, 階数が4である非超楕円曲線を一般ファイバーとする非特異射影曲線上のファイバー空間を持ち, 曲面の不変量に影響を与える退化ファイバーを持たないような曲面の変形族の構成, の2点について重点的に研究を行った. (1)については, ファイバー空間から定まる乗法写像が全射であるという仮定の下では既に堀川指数が定まることを証明しており, 本研究においてはこの仮定をはずしても堀川指数が矛盾なく定められることを証明することを目指している. 25年度は乗法写像が非全射であるファイバー空間を持つ例を2つ構成し, それらについての構造解析を進めた. 問題解決につながると思われる重要な情報を得ることができた. (2)については, 変形族の構成のための重要な情報として, 我々が対象とする曲面達のモジュライ数の計算を行った. まだ, すべての曲面に対して求められているわけではないが, 一部の曲面については求めてある.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記(1)の一般ファイバーが種数が4, 階数が3の非超楕円曲線であるファイバー空間の堀川指数に関する問題に関しては以下のように進んでいる. 乗法写像が非全射である場合にも定義できることを示せば十分なのであるが, これが予想外に難しく, 証明が困難を極めた. そこで, このような(乗法写像が非全射であるような)ファイバー空間をもつ曲面の例を構成し, その構造解析をするという方向へ方針転換をした. 実際に例は2通り得ることができた. それらの構造を精密に調べることにより, いくつかの重要と思われる情報を得ることができた. 特に重要なのが, その曲面のファイバー空間に対する相対標準層の順像の同型類を特定することができたことである. また, 一方の例については構成したものそのものは相対標準像とはなっておらず, それにある種の双有理変換を施すことにより相対標準像に変換できることが証明でき, またその結果から相対2次超曲面の中での線形同値類を特定することができた. こういった結果により, 退化ファイバーの堀川指数がこのようにすれば定義できるのではないかという具体的な予想も立てることができた. 上記(2)の一般ファイバーが種数が4, 階数が4の非超楕円曲線であるファイバー空間をもち, その堀川指数(階数が4の場合は他の研究者達により定義されることが証明されている)の総和が0である曲面の変形理論の関しては, 以下のように進んでいる. 曲面の相対標準写像による像の相対2次超曲面の中での法線束の第1コホモロジー群が0になる場合についてモジュライ数を求めてある. その値は曲面の幾何種数のある種の1次式で与えられる. 曲面の変形族の構成に関しては, 同じような仮定の下で構成することに成功し, 多くの曲面が相対標準像の順像が半安定またはそれに近いような曲面へ変形できることが証明できた.
|
今後の研究の推進方策 |
階数が3の場合の堀川指数の問題については, 具体例の構造理論の一般化という方向で考えていく. 結果についてある程度予想できているので, この方針で解決できると思われる. あと必要な知識としては, 曲面特異点に関する理論と, 高次元多様体の部分多様体の交叉理論である. これらに関する文献から, 有益と思われる情報を得つつ研究を進めていく. 階数が4で堀川指数の総和が0である曲面の変形理論については, 以下のように進める. モジュライ数については曲面の正則接束のコホモロジー群の次元を調べるという従来通りの方法をとる. その際, 曲面の相対標準像を含む相対2次超曲面をある種の双有理変換したものの正則接束のコホモロジー群を考察しなければならない. 高次元多様体に関する文献から有益な情報を得つつ解決に結び付けていきたい. 変形族の構成についても, 相対2次超曲面を双有理変換したものの構造がカギとなる. モジュライ数の計算と連動させながら進めていく. 上記の2つの問題が解決したら, 以下の問題にも着手する. (3) 一般ファイバーが種数が4, 階数が4の非超楕円曲線であり, 堀川指数の総和が1/2であるファイバー空間を持つ曲面の分類と変形理論, (4) 一般ファイバーが種数が5でゴナリティが3の曲線であるファイバー空間の勾配の下限の問題, である. (3) に関して, 曲面の相対標準像を含む相対2次超曲面が堀川指数の総和が0の場合と異なり, きれいな構造になっていないという不利な点がある. しかし, ある種の双有理変換を行うことにより, 2つのヒルツェブルフ曲面のファイバー積の場合に結び付けられることが予想されるので, この方向で考えていきたい. (4) は他の研究者によりbest possible でない不等式が得られているので, その証明方法を精密化する方向で考えていく.
|