研究課題/領域番号 |
25400060
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吉永 正彦 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90467647)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超平面配置 / ミルナーファイバー |
研究概要 |
超平面配置のミルナーファイバーの研究は、非孤立特異点のミルナーファイバーの典型例として、特異点の研究者が流入することで、ここ数年活発に研究されている。その中心課題は一言で述べると「超平面配置のミルナーファイバーのベッチ数は組合せ論的に決定できるか?」という問題である。多くの研究者の努力により、Multinetと呼ばれる組合せ論的構造が、コホモロジーへのモノドロミー作用と密接に関係していることが分かってきている。特に一次のコホモロジーについては、モノドロミー作用を込めて完全にMultinetにより記述されるだろうと予想されている。私は昨年度、ミルナーファイバーのコホモロジーのモノドロミー作用による固有分解を、直線配置の実構造を使って記述するアルゴリズム「共鳴バンド法」を考案した。2013年度は共鳴バンド法の拡張や応用を軸として、ミルナーファイバー、局所系係数コホモロジーや特性多様体、それに関連した組合せ論的構造の研究を行い、二つの進展があり論文を投稿した。 一つ目は、admissible local systemに関するNazir, Torielliとの共同研究である。階数1の局所系のモジュライ空間は指標トーラスと呼ばれているが、この中のほとんどの点では対応する局所系コホモロジーが組合せ論的に計算できることが知られている(Esnault-Schechtman-Viehweg)。局所系係数コホモロジーの組合せ論的決定のためには、「ESVの結果が使えない局所系達のなす集合」を指標トーラスの中で決定することが重要であると考え、その基本性質を調べ、これまでの特性多様体の研究との関連を明らかにした。 二つ目は、ミルナーファイバーのコホモロジーのモノドロミー分解における非自明固有空間の消滅に関するBailetとの共同研究である。共鳴バンド法により示されていたいくつかの結果に対して、実構造を使わない証明を与えるため、Orlik-Solomon代数の退化写像という新しいテクニックを導入した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、共鳴バンド法を使ったミルナーファイバーのモノドロミー作用に関するコホモロジーの固有空間分解や局所系係数コホモロジーに関する計算が進み、多くの知見が得られた。特にGrunbaumの単体的直線配置のリストの計算は、既存の方法では計算機を援用しても難しかった所まで進み、新しい例や現象が見つかっている。また、multinetとの関係に関する予想に対して、多くの非自明な例が得られており、この方面の研究コミュニティーで一定の評価を受けている。まだ論文とはなっていないが、Torielli氏との共同研究として、共鳴バンド法とmultinetに関する進展があり、論文を準備中である。単体的配置のミルナーファイバーの構造に関して、明示的な予想が得られ、単体的直線配置の専門家のM. Cuntz(Hannover大学)との共同研究を開始した。Nazir, Torielli等との共同研究による、指標トーラス内のnon-admissibleな局所系の分布については、基礎的な結果で、今後重要性を増すと思われる。当初、26年度の研究計画に含まれていた、共鳴バンド法を使って得られていた結果の複素化に関しては、かなりの部分が、Bailet氏との共同研究で既に実行された。 上記の研究のいくつか(複素化や離散幾何的な視点からの研究)は、当初26年度に行うことを想定していたもので、計画よりも順調に進んでいる。他方、二次曲線の関係する話やルート系に付随した超平面配置の特性多項式の計算に関しては、この一年間は特筆するべき進展はなかった。しかし全体としては、概ね順調に進んでいると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
最近(2014年1月)に発表されたPapadima-Suciuのプレプリントにより、multinet構造と青本複体のコホモロジーの関係が明らかになった。これはミルナーファイバーのコホモロジーとmultinetの関係を論じる上で重要な結果で、今後しばらくはこのPapadima-Suciuの論文で提示された枠組みに沿って研究が進むと思われる。本研究の立場からは「直線配置の青本複体のコホモロジーを共鳴バンドを使って記述すること」が重要課題である。この一年間の多くの発表やSuciu等との議論により、共鳴バンド法を使ったミルナーファイバーや局所系の研究が、実構造を持つ超平面配置に限れば既存の一般論よりも強力であることが明らかになってきており、青本複体のコホモロジーの記述は重要な応用を持つと期待している。ミルナーファイバーやmultinetに関係した未解決問題がいくつかあるが、実構造を持つ超平面配置に対して共鳴バンドを使った解決を目指す。同時に実超平面配置のミルナーファイバーに関する結果を複素配置に一般化する方策を探る。当面は、ミルナーファイバーや局所系係数コホモロジーの研究を中心に進めるが、二次曲線や特性多項式の計算など他のテーマもタイミングを見つけて進める予定である。
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