研究課題/領域番号 |
25400068
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
楯 辰哉 東北大学, 理学研究科, 教授 (00317299)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子ウォーク / 周期的ユニタリ推移作用素 / 局在化 / 固有値 / 半古典解析 / 単体複体 |
研究実績の概要 |
2 年前に周期的ユニタリ推移作用素と呼んでいる、整数格子の作用と可換な、ある作用素のクラスを導入し、そのスペクトル構造の詳細を調べプレプリントを書いたが、今年度はそのプレプリントの内容が、結晶格子上のユニタリ作用素など、より広範な作用素に適用されることを言及し修正した。現在投稿中である。 また、昨年度より引き続き小松尭氏と共同で、定数コイン行列を持つ元来の量子ウォークを含む、ある程度扱いやすいクラスの周期的ユニタリ推移作用素から定まる量子ウォークの局在化のための判定条件を調べた。局在化は問題のユニタリ作用素の固有値の存在が密接に関連するが、どのような固有値を持つかの判定条件を、コイン行列と単位の分解の性質により記述することに成功した。昨年度に得ていた結果はグローバー型の周期的ユニタリ推移作用素にのみ適用可能であったが、今回得られた判定条件はそれを一部で含み、例えばフーリエ型に対しても適用できる。実際、様々な状況に適用でき、現在論文を執筆中である。 1次元の量子ウォークの半古典解析の研究は、現在のところ様々な計算結果は出ているものの決定的な結果が得られていない状況である。来年度は主にこの話題に力を入れたい。また、今年度から Luo Xin 氏と共同で、単体複体上のグローバーウォークの研究を行なっている。この研究はむしろ量子ウォークの一種であるグローバーウォークそのものの構造を理解する上で重要な研究であると判断し着手した。その結果、グローバー型のユニタリ作用素は、むしろ単体複体自身に対して定義するのは難しく、単体複体から自然に作られるグラフ構造を導入し、単体複体の組み合わせ論的構造を備えた二つのユニタリ推移作用素を定義することができた。来年度も引き続きそのスペクトル構造や漸近挙動を調べたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記において「やや遅れている」としたが、実際の所研究についてはコンスタントに進んでいる。実際「研究実績の概要」でも述べたが、数年前に執筆したプレプリントの内容が、結晶格子上のある種のユニタリ推移作用素に対しても適用できることが分かり、その結果結晶格子上でも量子ウォークの局在化などを議論できる下地ができた。遅れの原因の一つとして、所属機関における通常業務の激化をあげることができる。これに対しては、来年度(最終年度)より再び一定の時間を研究に割くことができるようになる予定であり、遅れを取り戻すことができるものと思っている。また研究に割くことのできる時間の減少への対策として、今年度より Luo Xin 氏に研究補助員としてご協力頂き、単体複体上のグローバーウォークの研究に取り組むこととした。これにより、ある程度研究の遅延が回避できている。研究遅延の第二の原因は、1次元量子ウォークに対する半古典解析が思うように進んでいないということである。1次元量子ウォークの半古典解析とは、通常の1次元量子ウォークと2次元特殊ユニタリ群の既約表現とで定義される1次元多状態の量子ウォークで、既約表現の最高ウェイトを無限大にする極限をさしている。当初の研究計画では、量子ウォークの推移確率を定義する内積が1次元複素射影空間上の超平面束のエルミート計量から定まっていることに着目し、射影空間上での積分表示を用いて漸近解析を行う、というものであった。この方針は妥当なものと考えられ、これに従って計算を進めて研究中であり、いくつかの重要な公式などを発見している。しかし、現れる積分の取り扱いが予想以上に煩雑であり、そこで時間がかかっている。最終年度である来年度はこの研究テーマを中心に研究を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
先にも述べたが今後の中心的な課題は1次元量子ウォークに対する半古典解析である。具体的には1次元の通常の量子ウォークと2次特殊ユニタリ群の既約表現から定まる1次元多状態量子ウォークのスケールされた分布が、既約表現のウェイトを無限大にする極限、つまり半古典極限においてガウス分布に収束するであろうという予想を立てており、その解決に向けて努力したい。実は、この予想に対しても、すでに条件なしでは成り立たないことを示唆する計算結果が得られている。つまり現時点で得られている知見の一つとして、初期条件として、1次元格子上で著しく対称性の崩れている初期条件に対しては、ガウス分布には収束しないことを示唆する計算結果である。極端な初期条件の場合は、おそらくガウス分布は現れないことを証明できるのではないかと、考えている。しかし対称性の高いものであればガウス分布に収束するのではないかと考え、研究を進める予定である。 単体複体上のグローバーウォークについても、引き続き Luo Xin 氏の協力のもとで研究を行なっていく。現時点では、単体複体上のグローバーウォーク自身は組み合わせ論的、あるいは位相幾何学的に「半分の」情報しか持っていないことが判明した。そこで今年度は、単体複体から自然に派生する二つのグラフ上のグローバーウォークを定義し、考察を行ってきた。結果単体複体上のグローバーウォークより多くの情報を持っていることが、推移確率の時間平均を計算することによりわかっている。今年度は主に有限単体複体を考えてきたが、来年度はこの研究を無限単体複体に広げて、まずはシリンダーなどの簡単な空間の単体分割に対して推移確率の漸近挙動を計算することを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は所属機関における通常業務の激化により、出張等により情報収集や研究打ち合わせを行う回数が大幅に減少してしまった。その結果、当初配分を予定していた国内旅費をあまり使用せずに済んでしまったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度は引き続き Luo Xin 氏に継続的に研究協力(専門的知識の供与、資料収集、資料整理)を依頼する予定であり、来年度の分配金からそのための謝金を支出する予定である。そのため、来年度の国内旅費・国外旅費が不足がちになることが想定される。そこで上記の次年度使用額を国内・国外旅費に充てる予定である。
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