本年度は以下の研究を行った。(1)PerelmanはRicci flow(以下、RF)に沿って単調性を持つ汎関数(W-汎関数)を導入し、その応用として非局所崩壊定理と呼ばれるRFの特異性を調べる上で基本的かつ重要な結果を証明した。この非局所崩壊定理をRicci Yang-Mills flow(以下、RYF)に対して拡張する問題に取り組み、曲率に関するある条件の下、RYFに対する非局所崩壊定理を証明することができた。この問題の困難さは、RYFに対するW-汎関数が単調性などの自然な性質を持たないことである。しかし、曲率に関するある条件の下、準単調性ともいうべきある程度良い性質を持っていることを証明し非局所崩壊定理を確立することができた。(2)Perelmanは測地線のRF版としてL-測地線と呼ばれる対象を導入し、それにまつわる幾何は総称してL-幾何と呼ばれる。 L-幾何の主要な登場人物として簡約体積と呼ばれる、RFに沿って単調性を持つ性質の良い幾何学的量がある。RYFに対するL-幾何、特に簡約体積にあたるものを定義することはRYFが導入された2007年以来の懸案の問題の1つである。今年度は、底空間の次元が2次元の場合にRYFに対する簡約体積を導入しその単調性を証明することができた。問題の困難さは、L-幾何における長さの概念にあたるL-弧長の概念の類似物を、単調性などの良い性質を保つ形でRYFの文脈で定義するのが全く容易でないことに尽きる。底空間の次元が2次元の場合に、その困難を克服することができた。この結果は、確率測度空間の最適輸送理論とも関連が深く、興味深い結果を今後もたらすと期待される。また、3次元以上の高次元の場合への拡張は今後の最重要課題の1つであり今後も研究を続行する。さらに、RYMに付随する非線形共役熱方程式の解に対する微分ハルナック不等式に関する研究成果も挙げた。
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