本研究テーマであるホモトピー代数構造の幾何学への応用について,今まで特にホモロジー的ミラー対称性に関する研究を行ってきた.例えば,本研究期間においてトーラスファイバー束のホモロジー的ミラー対称性(Kontsevich-Soibelman'2000)の定式化をより実行可能な具体的なものに書き換え,そのある変形を構成した. 今年度はその具体的定式化を2次元トーラスの場合に適用し,2次元トーラスの深谷圏のA∞構造を具体的に決定し,このA∞構造の,対応する三角圏への応用について議論し,論文にまとめた(投稿中).これは非自明な無限次のA∞構造まで持つ深谷圏のA∞構造を具体的に記述したはじめの例であるといえる. また,上のようなホモロジー的対称性の定式化においても必要となる,A∞圏から三角圏を構成する方法について,一部符号の定め方があいまいになっていることに気づき,正しい符号の決め方とそのように符号を決めたときの圏の持つ性質について議論した.A∞圏から三角圏を構成する際,もともとのA∞圏からそれを含むより大きいA∞圏を構成し,そのゼロ次のコホモロジーとして三角圏が得られるが,このより大きいA∞圏のA∞構造の符号の決め方に少なくとも2つ自然なものがある.これらのどちらも,A∞圏を別のA∞圏にA∞構造を自然に保つように移すホモロジー摂動理論と呼ばれるものと両立することを示した.これについても論文にまとめた(投稿中). 一方,今年度はホモトピー代数の有理ホモトピー論への応用についても研究した.特に,ポアンカレ双対を持つ有理ホモトピー型がサイクリック極小C∞代数によって分類できることについて議論し,この分類法はコホモロジーを固定した空間の有理ホモトピー型の分類において非常に実用的であることを,いくつかの応用例をあげつつ議論した.この結果はすでに論文として出版されている.
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