結び目のアレキサンダー多項式は古典的な研究対象であり,様々な研究がなされている.これまでの研究はその係数に注目したものが大多数であるが,本研究では零点に注目し,その配置や安定性についての研究を行ってきた.零点の配置に関しては,全て実数であるもの (real stable と呼ぶ),全て単位円周上にあるもの ( circular stable と呼ぶ),またはそのいずれかになっているもの(bi-stable と呼ぶ)が特に興味深い.前年度までの研究でも様々な手法を開発し,絡み目多項式の安定性を調べている.アレキサンダー多項式の実零点が実軸上に交互に並ぶとき,それらをインターレースした多項式と呼ぶ.本年度もトロント大学の村杉邦男氏と共同研究を継続し,インターレース特性の活用法を探った.成果として,ウェイトに関するある種の条件を満たすクラスの樹状絡み目について,bi-stability を証明した.多項式をインターレースさせるという発想がこれまでに類のない手法であり今後の発展が期待される. 結び目の局所変形と零点の配置の変化について,ザイフェルト曲面の観点から研究を進めている.例えば,ザイフェルト曲面を捻る(特に,結び目に交差交換を行う)と,それに連動して零点が引きずられて動く様子である.零点ではないが,結び目の多項式の係数について,興味深い成果が得られた.それは,与えられたアレキサンダー多項式に対して,その係数が直接現れるザイフェルト行列と最小種数曲面の構成である.それにより,特定の係数を1だけずらす操作を曲面まで込めた結び目の交差交換によって簡単に実現できるようになった.
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