研究課題/領域番号 |
25400090
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
佐藤 進 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90345009)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 曲面タングル / 曲面結び目 / 溶接結び目 / 結び目解消操作 / フォックス彩色 |
研究実績の概要 |
本研究の課題は曲面結び目の性質を曲面タングルという観点から明らかにすることである。本年度におこなった研究は大きく3つに分けられる。 (1)種数1のリボン曲面結び目は溶接結び目によって表現される。曲面結び目の一部分の曲面タングルを別のものに置き換える局所変形のうち、特に溶接結び目上の局所変形によって表現されるものに注目した。このとき、交差交換、デルタ変形、シャープ変形はいずれも溶接結び目に対する結び目解消操作であることが分かった。このことはリボン曲面結び目に対する新しい結び目解消操作の発見を意味しており、大変興味深い。またその応用として、溶接シータグラフに内在される溶接結び目の実現問題と、それらに対応する曲面グラフに内在されるリボン曲面結び目の実現問題の解決を与えた。 (2)3次元立方体の中に、各面に平行な円板を複数枚埋め込んだものを用意し、それを射影図とする曲面タングルを考察した。これはちょうど2次元の布を縦糸と横糸で織って得られるタングルの4次元版とみなせる。このとき、この曲面タングルは常に分離的であること、すなわち2次元の糸は互いに絡まらないことを示した。この結果は高次元にも拡張される。このことは4次元以上の空間内の高次元タングルが3次元内の古典的タングルと大きく性質が異なることを示している。 (3)以前の研究により古典的結び目、仮想結び目、曲面結び目に対する非自明な11彩色に用いられる色の種類はつねに5色以上であることは分かっていたが、Chenらのグループによりその最小値は6以下であることが発表された。そこで中村、中西との共同研究により、11彩色に用いられる色の種類の最小値が5であることを決定した。また9彩色以下の場合と異なり、最小値を与える5色の集合の候補は本質的に2通りあり、そのどちらも実現できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は曲面タングルを用いた曲面結び目の研究の有効性を調べることであった。その結果,研究実績の概要でも記述した通り、曲面タングルの置き換えに相当する曲面結び目に対する局所変形に関して大きく進展することができた。溶接結び目に対する交差交換が結び目解消操作であることから、それに対応するリボン曲面結び目のベースとバンドの取り替えも結び目解消操作であることが示せた。そこでさらに研究を進めると、当初予想していなかったデルタ変形、シャープ変形に対応するリボン曲面結び目の新しい結び目解消操作を発見することができた。一方、新しい曲面タングルの構成の提案という観点から2次元の布に対応する曲面タングルを考案した。その結果、高次元のタングルは古典的なタングルと大きく異なる性質をもつことが分かった。またさらに発展して、フォックス11彩色に関する興味深い結果を得た。これらは当初計画していた交差交換に対応する曲面タングルの研究だけでなく、曲面結び目の研究に関する新しいアプローチを提供している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究の進捗状況を踏まえて、今後の研究の方針を次のように考えている。 (1)リボン型の曲面結び目を表現する溶接結び目について、その性質をさらに調べる。本年度の研究で交差交換やデルタ変形、シャープ変形が結び目解消操作であることが分かったので、それらに対応する局所変形によってリボン結び目間の距離を定義することができる。そこでアレキサンダー多項式やカンドルコサイクル不変量などと関連づけて、距離の評価に役立てられないか考察する。 (2)溶接結び目は向き付け可能な種数1のリボン曲面結び目(トーラス)を表す。そこで溶接結び目による表示を発展させて、向き付け不可能な種数1のリボン曲面結び目(クラインの壺)を表現できないかを考えたい。リボン表示のバンドのひねりを溶接結び目上に置いたドットなどで表現しその基本変形を調べることで十分可能であると考えている。もしこのような新しい表示法がみつけられれば、これまでの研究結果を応用することにより、向き付け不可能な曲面結び目の研究に新しい方向を与えることができる。 (3)古典的結び目や曲面結び目のフォックス彩色について、さらに研究を進めたい。現時点では11彩色までの奇数の場合に解明してきたが、さらに一般の彩色に関する色の種類の最小値に関して調べる。特に偶数の場合には6彩色の場合ですら奇妙な振る舞いをすることが知られているので、例えば2のベキ乗の場合についてどのような彩色が考えられるかを調べるのは基本的ではあるが大変興味深い。
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