本研究においては「1. 三次元多様体論、特にHeegaard理論における手法の精密化・展開」、と「2. 低次元トポロジーにおいてこれまでに得られている様々な成果や定式化をより広い幾何的問題に適用」という二つの目的を設定している。本年度はそれぞれに関して次のような成果が得られた。 1.Heegaard分解の距離に関して、井戸絢子氏、張娟姫氏との共同研究でkeenなHeegaard分解と呼ばれる概念を定義して,任意のg(>2)と任意の自然数n(>2) に対して、距離がちょうどnとなるような種数gのHeegaard分解でkeenであるようなものが存在することを示しこの結果を専門誌に投稿していたが、レフェリー・編集部と何回かのやり取りの後に出版が受理された。現在はこの結果に関連して曲面の曲線複体の局所的な構造に関する研究を推し進めている。また張娟姫氏、小沢誠氏、高尾和人氏と共同でいくらでも橋数の高い既約な橋分解を持つ結び目が存在することを示し、この結界について既に論文を出版しているが、この中で与えられている同じ結び目の異なる既約な橋分解の間の安定化距離を確定することができた。この内容については現在論文を投稿中である。また、これに関連して、結び目の同値な橋分解に関する研究を行っている。 2.本年度は低次元トポロジーに関連して、球面上の閉曲線に関する研究を東京大学の伊藤昇氏他と共同して行った。ここでは制限されたライデマイスター移動で互いに移り合う2つの球面曲線の間に、移り合うために必要となるライデマイスター移動の回数で距離を定義し、更に有限型不変量と関係するコード図式で定まる関数を用いて、この距離を評価する方法を得ることができた。また折り紙に関して剛体的な折紙(rigid origami)や折紙タイル張り(origami tessellation)に関する研究を行った.
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