最終年度は、主として超幾何系について研究を行った。従来から進めてきたガウスの超幾何級数がガンマ乗積表示を持つための必要条件を求める研究を今年度も継続的に実施した。特に超幾何級数の隣接関係式の対称性、とりわけ双対性と相互性と名付けた二つの対称性が、解の存在のための深い算術的必要条件をもたらすことを示し、この主題に関する第2作目のプレプリント(arXiv: 1504.03140)をまとめた。これまでに得られた結果は、理論構成の規範・典型となる中央領域におけるものが主であるが、理論を他の領域に拡張するためには更なる創意が必要である。これは今後に残された興味深い課題である。これまでの研究成果は、ワークショップ「超幾何学校2015」(神戸大学)において講義を行いこの分野への周知に努めた(講義録は印刷中)。またフィリピンで開かれた研究集会でも概要を発表した。更に蛭子彰仁との共同研究で、一般超幾何関数 3F2(1)の連分数表示の研究を開始し、その基礎をなすものとして 3F2(1) の隣接関係式・三項関係式の一般論を構成した。この研究は今後も継続していく予定である。 研究期間全体を通じての研究成果は、パンルヴェ方程式の力学系的研究と超幾何関数の特殊値・隣接関係式の研究に関するものである。前者については、パンルヴェ第 VI 方程式の非初等的ループに沿う非線形モノドロミー写像の不変部分集合の決定や周期解の個数の評価を得た。次にパンルヴェ第 I 方程式の軌道体ハミルトン構造を確立し、更にこの幾何構造によるパンルヴェ第 I 方程式の一意的な特徴付けを与えた。なおパンルヴェ方程式の力学系について講演するため招待を受けていたKIAS(韓国)の研究集会はMARSのため中止になった。超幾何系については、最終年度に得た上述の結果に加えて、そこへ至るまでの過年度の理論的な基盤整備がある。
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