研究課題/領域番号 |
25400111
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
高崎 金久 近畿大学, 理工学部, 教授 (40171433)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 位相的弦理論 / 溶解結晶模型 / 量子ミラー曲線 / 量子スペクトル曲線 / q-差分方程式 / KP階層 / τ函数 / Kac-Schwarz作用素 |
研究実績の概要 |
strip geometryやclosed topological vertexなどの特殊な3次元トーリックカラビ-ヤウ多様体上の位相的弦理論に対して前年度に行った量子ミラー曲線の研究を見直して,これらの量子曲線がKP階層におけるKac-Schwarz作用素の言葉で統一的に理解できることを明らかにした.Kac-Schwarz作用素は1990年代に2次元重力の研究の中で見出されたものだが,最近ではリーマン球面の各種のHurwitz数の量子スペクトル曲線の研究などにも利用されている.今年度の研究では位相的弦理論の開弦振幅の多変数母函数をKP階層のτ函数とみなして,Kac-Schwarz作用素の観点から量子ミラー曲線を再導出した.これらの量子ミラー曲線は2次元重力やHurwitz数の場合と違ってq-差分方程式として定式化されるが,そのようなq-差分方程式が現れる仕組みもKac-Schwarz作用素によって明快になった. さらに,以前研究した5次元U(1)超対称ゲージ理論の溶解結晶模型についても,同じ方法によって量子スペクトル曲線を求めることができた.この量子曲線もq-差分方程式として定式化されている.さらに,この模型の4次元極限からリーマン球面のGromov-Witten不変量の量子スペクトル曲線が再現されることを見出した.この量子スペクトル曲線は最近Dunin-Barkowskiらによって組合せ論的な計算で導出されたもので,差分方程式として定式化されている.それを溶解結晶模型から再導出する試みの中で,模型の4次元極限自体に対する理解も得られた.その副産物として,リーマン球面のGromov-Witten不変量の母函数がKP階層のτ函数であること(従来は別の方法によって説明されていた)の別証明が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Kac-Schwarz作用素による量子ミラー曲線の導出をウェブ図形にサイクルが存在する場合に拡張することを考えたが,ある簡単な例において,開弦振幅の多変数母函数がKP階層のτ函数にならない,という予想外の事実が判明した.当初発展を期待していた局所CP1×CP1 geometryや局所CP2 geometryなどの場合にも同様の障害が予想されるので,この方向の研究は中止した. 他方,strip geometryのウェブ図形のすべての外線に独立な変数を用意して構成した母函数が多成分KP階層のτ函数になるであろう,というτ函数予想はまだ生きている.その解決に向けての一歩として,任意に選んだ2本の外線に関する母函数を2成分フェルミオンによって表示し(それによって2成分KP階層のτ函数であることがわかる),それを3成分以上に一般化することを試みているが,まだ手がかりが得られていない.この方向の研究はもう少し時間がかかる. 当初予定していた全非負行列・全非負グラスマン多様体やクラスター代数の研究については,一定の知識を得ることができたが,依然として研究の明確な方向を見出すことができていない.古典可積分系として興味深い対象としては,一般線形群の2重ブリュア胞体の上にGekhtman, Shapiro, Vainsteinが構成したコクセター戸田階層や,その無限次元版というべきFock, Marshakov,Williamsのクラスター可積分系がある.また,FockとGoncharovによるクラスター変数の量子化や山崎らによるBPS箙の研究はダイログ函数・多重三角函数などの特殊函数が関わる点でも興味深い.これらの話題の消化にはもう少し時間を要する.
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今後の研究の推進方策 |
当初計画では今年度で本研究課題が終了する予定だったが,1年間の期間延長が認められたので,strip geometryのすべての外線に関する母函数のτ函数予想を主な目標として研究を続ける.一つの方針は2本の外線の場合の母函数の2成分フェルミオン表示を3本以上の外線の場合に一般化することであるが,まだ手がかりが得られていない.そこで,新たなアイディアとして,Giventalが高種数Gromov-Witten不変量の母函数に対して与えたような作用素表示を今の場合に導くことを考えてみたい.この表示はいわばボゾン表示であるが,Givental理論の研究者によって多成分KP階層による解釈が行われているようである.とりあえず,もっとも簡単な場合であるresolved conifoldを徹底的に調べることによって,Giventalの表示に相当するものを見出すヒントが得られるだろう. また,クラスター代数やそれに関連する組合せ論的構造と特殊函数との関係を追求したい.特に,FockとGoncharovによるクラスター変数の量子化や山崎らによるBPS箙の研究を学び,そこに登場する量子ダイログ函数や多重三角函数などの特殊函数の中に新たな研究の題材を探りたい.さらに,これらと関連する興味深い話題として,最近Bridgelandによってある種のRiemann-Hilbert問題が研究されている.そこにはBarnsのG函数などの特殊函数が現れる.このことについても考えてみたい. なお,今年度得られた成果については,2017年6月にイタリアで開催される可積分系の国際会議において口頭発表を行う予定である.この会議には,児玉裕治氏(オハイオ州立大学)をはじめとして,本研究課題と密接に関連する研究を行っている研究者も何人か参加するので,この機会に情報交換も行いたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた夏期の国外出張を行わなかった.また,期間延長を申請することになり,それが認められた場合の次年度の経費を確保するため,今年度の使用額を抑えた.
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の残額をすべて次年度に使用する.おもな支出は次年度6月のイタリアでの国際会議(滞在費先方負担)の旅費やその他の国内旅行の旅費である.計算機ソフトウェアの更新なども予定している.
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