研究課題/領域番号 |
25400114
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
小池 達也 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80324599)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 完全WKB解析 / 漸近解析 / 複素領域における常微分方程式論 / 代数解析 |
研究実績の概要 |
(1) 無限階微分作用素の完全 WKB 解析への応用 方程式に含まれるパラメータに大きいパラメータをかけるスケーリングを行うと,漸近的な性質が変わると期待される.一方で,このスケーリングが Stokes 幾何を変えない程度に「おとなしい」ものであれば,Stokes 現象の起こる場所は変わらないことも期待される.Borel 平面内では,前述のようなおとなしいスケーリングにより,Borel 平面内の特異点の位置は変わらず,その特異点の性質を変わると考えられる.そのような例として,「boosted Whittaker equation」等を取りあげ,それらを無限階微分作用素を用いて解析したのがこの研究である.無限階微分作用素を用いることで,WKB 解の Borel 変換の外来微分を求めるなどの成果を得た.(京都大学数理解析研究所・河合隆裕氏と広島大学・神本晋吾氏との共同研究) (2) 二階線形常微分方程式に対する WKB 解と多重総和法 ポテンシャルに大きいパラメータに関して低次の項が含まれている場合に,その WKB 解が Borel 総和可能にならず多重総和可能になる実例が見い出されている.このことを一般的な状況ではっきりさせることが目的とし,ポテンシャルが多項式の場合は WKB 解の Borel 変換については以前の研究で調べた.今回の研究でポテンシャルが有理関数の場合にも同様のことが成立することがわかった.また,幾つかの例を考察することにより,複数の特異点がある場合にはBorel平面内での方向により指数増大度が変化することもわかった.これは特異点が一つしかない多項式ポテンシャルの場合には見られなかった現象である.さらに,従来の方法では多重総和法のレベルが予想できない例も見い出された.この例については多重総和可能かどうかも含めて,今後の研究の進展が待たれる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
漸近解析を Borel 平面における解析として捉え,それを推進していくことにより漸近解析の研究の発展を目指すことが大きな目標であり,漸近解析の新しい手法 (monomialsummability等)の Borel 平面での解釈などができなかったことについては不満が残るが,一方で本研究では(それらを必要としないぐらいに) WKB 解のBorel変換の Borel 平面における特異点やその性質の解明が大きく進んだ. 研究実績の概要 (1) では具体的な方程式を扱ってはいるものの,その研究では新しい「変換論」を導入しており,様々な応用が期待できる.例えば十数年前に大きいパラメータを含む高階線形常微分方程式に対して単純極型作用素を導入し,その分類を行なったが,分類の結果得られた方程式のクラスのうち当時の解析方法では扱えないものがあり将来の宿題として残った.今回の一連の研究によりそのクラスの方程式に対する接続公式も得られ,このことからも研究の進歩を伺い知ることができる. 研究実績の概要 (2) で述べた研究では,WKB 解の Borel 変換像の Borel 平面における指数増大度を調べる新しい手法を導入した.残念ながらそれでも扱えない方程式も残りはしたが,それは例外的なものと考えられ,この方法は今後も有効に用いられると考えられる.従来はBorel 総和法の範疇に入るものを考えていたが,非線型方程式なども含めて幾つかの方程式を検討してみる限り,特異摂動型方程式の場合でも多重総和法の適用が今後の研究において必要となることが増えるように思える.その観点からも (2) の結果は意義が大きいものと考えらえる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究自体は今年度が最終年度であるが,本研究での成果から今後の漸近解析の研究での重要な手掛りが得られたので,ここではそのことについて述べたい. (a) 合流型 A 超幾何系の不確定特異点における形式解の総和可能性:特異点に対して定まる slope が一つの場合の形式解の総和可能性は以前の研究で得られていたが,複数の slope がある場合にどのようになるかは未解決として残されていた.昨年度のスペインでの共同研究で幾つかの具体的な例を扱い,形式解の多重総和可能性について肯定的な結果が得られた.この研究では具体例を扱ったが,結果を行列 A から定まる配置により記述できるという予想が得られている.その証明に取り組むことは多変数関数の漸近解析を発展させる意味でも重要であろうと考えている. (b) 完全 WKB 解析と多重総和法:「現在までの進展状況」で述べたように,今後は特異摂動型方程式の研究でも多重総和法が重要になっていくと思われる.その方向では,「研究実績の概要」の (2) で述べた研究,つまり,二階常微分方程式で,その WKB 解が Borel 総和可能でない場合に,多重総和可能性を証明する研究が最初の第一歩として適当と考えられる.この研究については今後も科学研究費支援事業の助成を受けて研究を進める. 多重総和法の研究では「二枚目」(一般には複数枚の)の Borel 平面があらわれ,そこでの特異点が,やはり漸近解析で重要な Stokes 現象を引き起こす.こうした問題の解明は本研究の自然な延長線にあるものと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
合流型 A 超幾何系の不確定特異点における形式解(Gevrey 解)の総和可能性の研究のためスペインを訪問する予定であったが,事情によりキャンセルとなった.そのために旅費に残金が出た.
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次年度使用額の使用計画 |
7月中旬に予定されているにポルトガルのリスボンで開催される研究集会 Resurgence in Gauge and String Theory に出席する.この研究集会は理論物理と resurgent function theory の接点を探る目的で開催されるもので,完全 WKB 解析と他分野との交流の観点から意義あるものと考えられる.
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