26年度中にJournal of Physics A誌にて出版されたトロピカル周期戸田格子の保存量に関する論文の内容について、27年5月にイタリアで開催された国際会議NEEDS2015にて発表し、他の参加者との議論を行った。その後、この系の等位集合の構造に関する研究方針を検討したが、いくつかの困難があり進展が見込めなかった。そこで、同じ可積分系ではあるがやや異なる種類の問題を考え、視野を広げることによって研究のブレイクスルーの方向を探ることにした。具体的には、共形場理論における一般化されたWickの定理と頂点代数の公理の一つであるBorcherds恒等式との関係に注目した考察を深めた。Baisら(1988)によるこの定理は、正規順序積により合成された場を単独の場に右からかけた演算子積展開の特異部分を、合成される前の場との演算子積展開をもちいて積分表示する公式からなり、実際の計算に広く応用されている。合成された場を左からかけた場合については、実用的な観点からは上記の公式と歪対称性の公式を組み合わせれば計算可能である。しかし、Baisらの結果と同じような単純な形の積分表示公式が存在するかどうかは知られておらず、相互作用のある場に対してそれは非自明な問いであると考えられる。我々はその表示を発見し、論文投稿を行った。この内容について、7月にロシアで開催された国際会議CQIS2016および国内学会にて発表し、他の参加者との議論を行った。この論文はいまだ掲載決定には至っていないが、その内容の解説にフェルミオンを含んだ場合の計算例を追加して我々の公式の有用性を例示した論文をCQIS2016のプロシーディングスに投稿し、こちらは掲載決定に至っている。
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