本研究は,無限次元タイヒミュラー空間の幾何構造を構築するという課題に向けて,擬等角写像類群それ自身やその様々な重要な部分群の作用に対する離散性条件を解明し,無限次元タイヒミュラー空間の商空間を考えることにより様々な相におけるモジュライ空間の構成可能性を分析している.特に,複素構造を持つ新しいタイヒミュラー空間をいくつか提示しているが,昨年度までの研究で,特に,フラクタル構造のタイヒミュラー空間を定式化し,その基本的性質を解明してきた.一般に,ある特別な代数的構造をもつ群を幾何学的対象のなかに実現しようとする場合に,位相的無限型リーマン面の擬等角写像類群を用いる方法がよく行われる. その擬等角写像類群の部分群のタイヒミュラー空間への作用が不連続であることを示すことによって,対象となる群は商空間としての幾何学的実体をもつことになる.今年度の研究では,フラクタル構造のタイヒミュラー空間の幾何学的大域座標から導入された自然な表現空間に対して,その不連続領域および安定領域の考察を行い,一般の無限次元擬等角タイヒミュラー理論にフィードバックした.また,谷口雅彦氏による無限生成ショットキー群やその上部構造である無限生成ケーベ群から生じる複素力学系のフラクタル構造のタイヒミュラー空間の研究結果を学ぶとともに,これまでに本研究課題で得られた成果をまとめ,できるだけ多様な複素力学系に対して統一的な理論を構築することをめざしてその作業を行った.
|