研究課題/領域番号 |
25400131
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
藤解 和也 金沢大学, 電子情報学系, 教授 (30260558)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | トロピカル値分布論 / ネバンリンナ理論 / 超離散方程式 / 有理型函数 / max-plus代数 / 国際研究者交流 / Finland / Joensuu |
研究実績の概要 |
Tropical Nevanlinna Theoryの完成とそのself-containedな書籍を出版するという本研究の主目的はRisto Korhonen, Ilpo Laine, Kazuya Tohge共著の"Tropical Value Distribution Theory and Ultra-discrete Equations" (World Scientific Pub.Co.Inc.ISBN-10:9814632791)により間もなく達成される。本年度のエフォートの殆どを同原稿の完成、その過程で得た知見に依る研究成果の改良と拡張に充てた。例えば`Cartanの等式'という古典的なネバンリンナ理論とAhlforsによる被覆面の理論との繋がりを示す結果が、1変数のトロピカル有理型函数、つまりmax-plus 代数上で定義された区分的線型な連続関数についても、ある種の「翻訳規則」に従えば古典的な理論と同様な議論により証明が可能であることはこうして導かれた。特に、Tropicalと古典的の両値分布理論の間に見通しの良い「辞書」が存在することを明らかできたのは重要である。それは単に特殊な関数に対し既知の結果と類似した理論展開が可能なことを示し得ただけではない。例えば`Vojtaの辞書'の名で知られる古典的ネバンリンナ理論とディファントス近似論との類似性が如何なる理由で成り立つかの解明への端緒と成り得たと期待する。両理論の中間に位置するトロピカルNevanlinna-Cartan理論がディオファントス近似論へ直接に繋がるとの期待はある意味自然である。書籍執筆の過程で差分、q-差分、超離散の各パンルベ方程式に関する様々な研究をひとつの道標とし、それらに寄与し得る知見や手法として何が期待されているかを認識できたことは、今後の研究の展開を見極める上で極めて有益であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究成果の出版という主たる目的は達成した。しかし発売予定日が当初は本年3月であったが、装丁等について出版社と著者間の連絡に時間を要するなどして5月に予定変更となったこと、また投稿中の論文2編の査読が終了しておらず、いずれの出版も本年度内とならなかったことの2点で、今回の自己点検評価を「おおむね」とした。ただし、研究成果の内容だけで自己評価するならば、当初計画の時点では想定すらしていなかった成果が得られており、十二分に満足できる達成度であった。これを通して、本研究が将来どのような方向に進むべきかについて本報告者は非常に明快な指針を得ることができた。例えば、q-解析と超離散「解析」の間に見出されるべき緊密な対応関係や複素解析学の代数学への貢献をmax-plus級数を用いた解析学で表現し直すことについての可能性などは、現時点では報告者自身の当該分野に対する理解が不十分なため準備段階にあって「期待」あるいは「夢」と表現するしかないものの、少なくともいくつかの具体的な事象についての確認ができている。これらを上記著書のAppendicesなどで可能な限り述べたいと考えたが、紙数制限や著者間での理解の相違等もあり一部しか含めることができなかった。改めてこれらの確認を本研究の目的の一部に加えたうえで、それらを達成することができれば次年度つまり本課題の最終年度こそは上記の評価を迷いなく(1)のレベルにできると確信している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、University of Eastern Finlandの研究グループとの共同研究が最重要な位置を占める。特に、Ilpo Laine 名誉教授, Risto Korhonen教授, Janne Heittokangas博士がその中心であり、彼らの共同研究者でもある Rod Halburd教授(UCL) とAimo Hinkkanen教授(UIUC)との連携をより一層緊密に保つことで本課題研究を更に推進できる。また、日本国内に於いては石崎克也教授(放送大学)や下村俊教授(慶応大学)をはじめとする値分布関係及び微分・差分方程式等の研究者との交流を通して幅広い知見と手法に関する最新情報を入手し、本研究計画に適宜必要な修正と更新を行う。これらなしに本研究課題の推進は困難となる。所属機関に於いて、本研究課題に関連した学生の育成及び同機関所属研究者との共同研究の実施は何れも極めて困難な環境にある。本研究課題が代表者1名のみで実施しているのは専らそれが理由である。しかし、本科学研究費補助金の支援で環境の変更が可能となった。具体的には、上記の海外共同研究者の本学への招聘と招聘期間に連動した国内研究者の本学への参集、その成果に基づいて報告者が上記機関を訪問し研究活動に専念できる環境の確保、そして研究成果発表のための国内外研究集会への出席を通じた情報収集の実現である。これらは、北陸地方の一研究者が孤立から解き放たれ、日本海と大国により遠く隔てられた北欧の研究者グループと共同して本研究課題を遂行し得る唯一可能な研究計画だと信じる。事実、これまで複数の科学研究費補助金により継続した支援が得られたからこそ、本研究課題に至るまでの10数年以上の期間に同グループとの共同研究にて成果を上げることができたと考える。今後もこの体制を強固に維持できるならば本研究も計画通り遂行できると信じている。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外研究協力グループの一員であるJanne Heittokangas博士をUniversity of Eastern Finlandより招聘したが、当初の計画では平成27年3月中での実施予定であった。しかしながら同博士の家庭の事情によりその時期での渡航に困難が生じた。本報告者の公務や同機関への訪問計画を調整することで、何とか本年4月5日来日、同月11日出国という旅程に変更して招聘を実現させた。然し平成26年度と27年度を跨ぐ会計処理となったことから、この招聘については予算執行手続きが当該年度分の所要額ではなく次年度使用額からの支出とするという対応を頂くことになった。それが次年度使用額が生じた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
当該年度所要額と同程度の費用により、同じくUniversity of Eastern Finlandの Risto Korhonen教授を本年5月19日来日、同月28日出国という旅程で招聘をする予定である。つまり、当該年度分を次年度に先送りしてKorhonen教授の招聘に支出し、次年度分は当該年度のHeittokangas博士の招聘に支出するという「入れ替えた形」での使用となっているものの、平成27年度早々にその「捻じれ状態」が解消される予定となっている。 以上のような事情でありますことから、実質的には使用計画の変更は必要ないものと考える次第です。引き続き、当初計画通りに研究を推進して参ります。
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