研究概要 |
本研究は, 時間と場所に依存する偶然性を伴う環境下で空間に分布した量(例えば, 人口の分布)の確率的時間変動を対象とし,その長時間後の分布状況を理論的に予測することを目標とする. 環境が時間と場所に依存する偶然性を持つという設定により, 一定環境下で論じられてきた 従来の確率論的人口モデルに比べ, より現実問題に即した理論が構築できる.また、本研究の対象は数学構造面からも広汎な普遍性を有し,様々な物理現象の他, ランダムな外力項を持った非線型偏微分方程式にも密接に関係する.本研究の特徴のひとつは, 環境は時間と場所に依存する偶然性を伴うことを仮定する点である. 従来の確率論的人口モデルの多くは環境が時間的に, あるいは空間的に一定な場合に限られてきた.しかし、現実問題, 例えば, 人類の歴史を繙いても, その環境は, 疫病の流行, 戦争などの時間と場所に依存する偶然性を伴ってきた。その意味で, 時間と場所に依存した環境の考察により, より実用性の高い理論を提供できると期待される。一方, 本研究が対象とする現象の背後にある数理は, 意外なまでの普遍性を有している。例えば不純媒質内での高分子の形状, 非結晶半導体(シリコン, ゲルマニウム...)中での電気伝導, 星雲の形成過程といった, 人口変動とは一見無関係な現象が共通の数理で記述される. 本年度はポアソン点過程をランダム媒質とするブラウン高分子模型を研究した.相互作用を表すパラメーターβと,ポアソン点過程の密度νの相空間において局在相,非局在相を分離する臨界曲線の存在を示し,その局所・大局的性質を調べた.また,パラメーターνを大きくする極限において,高分子の形状が媒質によって完全に規定される現象(完全局在)を定式化し,厳密な証明を与えた.
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