研究課題/領域番号 |
25400146
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
永井 敦 日本大学, 生産工学部, 教授 (90304039)
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研究分担者 |
亀高 惟倫 大阪大学, その他部局等, 名誉教授 (00047218)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ソボレフ不等式 / 最良定数 / 離散化 / グリーン行列 / 再生核 / フラーレン |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は基礎科学の諸分野に登場する微分方程式および差分方程式の境界値問題のグリーン関数(グリーン行列)を求め、対応するソボレフ不等式および離散ソボレフ不等式の最良定数を求めることである.平成28年度は多面体や各種グラフ上の離散ソボレフ不等式を導出して,その最良定数を厳密に求め,さらに不等式の等号を達成する最良ベクトルも計算した.さらに,最良定数の工学的な意味付けについても考察した.主要な結果は以下の通りである.
(1) 重み付きテープリッツグラフ上の2種の離散ソボレフ不等式と最良定数:重み付きテープリッツグラフ上の一般化離散ラプラシアンからグリーン行列および擬グリーン行列を求めるとともに,その再生核構造を調べ,再生等式から2種類の離散ソボレフ不等式を導出した.またの不等式の最良定数を(擬)グリーン行列の固有値の調和平均として厳密に計算した.本研究は1編の論文として,Linear Algebra and its Applications 504(2016) pp. 344--355 に掲載された.
(2) C60フラーレンとその異性体に関連する離散ソボレフ不等式と最良定数:切頂20面体(C60フラーレン)および低次のフラーレンおよびその異性体について,離散ラプラシアンを導出,その(擬)グリーン行列の再生核構造を調べ,離散ソボレフ不等式を導出し,最良定数を計算した.最良定数の大小によって頂点数の同じフラーレンを分類した.本研究は最良定数はその力学的な安定性,言い換えれば最良定数の値が小さいということは該当するフラーレンがより硬いということを表し,最良定数は応用上も重要な指標を与えることを示唆している.本研究結果については現在論文を作成中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題であるソボレフ不等式の離散化は,ベルヌーイ多項式の離散版の導出とその応用としての周期格子上の離散ソボレフ不等式の最良定数および等号を達成するベクトル(最良ベクトル)の構成に関する論文(2008年 Funkcialaj Ekvaciojに掲載)から始まった. 離散ソボレフ不等式の研究はそこで終わることなく,その後も完全グラフ,正多面体,切頂正多面体,…と発展し続けた.近年は切頂20面体(つまり,C60フラーレン)およびその異性体に関する離散ソボレフ不等式の最良定数および最良ベクトルの計算が進んでいる.これらの結果は数学的に不等式のよりシャープな評価を与えるという意味で重要であるとともに,応用数理的側面においても最良定数は物質の硬さに関する指標を与えることが分かった.また不等式の等号成立条件,つまり最良ベクトルは物質の硬い部分と柔らかい部分に関する指標を与えることが予想されるなど,応用上も重要な概念であると新たな知見が得られることが期待されている. 離散化に比べて多変数化も重要な課題である.特に高次熱作用素や重調和作用素,多重調和作用素については,グリーン関数は求まっており,再生核としての性質やソボレフ不等式の導出と最良評価については,おおむね結果が出ているので,今後論文にまとめて,数学または応用数学分野における適当な雑誌に投稿する予定である. 以上の通りソボレフ不等式の離散化については特に応用面において新たな展開があるなど,当初の計画以上に順調に進んでいる.その一方で,多変数化,つまり偏微分作用素に関連するソボレフ不等式については論文作成までには至っていない.以上の理由によって,進捗状況については「(2)おおむね順調に進展している」とした.
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今後の研究の推進方策 |
引き続きC60フラーレンとその仲間,頂点数60の異性体について離散ソボレフ不等式の最良定数と最良ベクトルを計算する.並行して,頂点数の少ない低次フラーレン,頂点数の多い高次フラーレンについても立体として可能なフラーレンを構成するとともにその最良評価に関する研究を進める.C60を始めとする各種多面体の他にも,応用上重要な各種グラフ,具体的にはテープリッツグラフ,コクセターグラフ,メビウスラダーなどの各種グラフやカーボンナノチューブなどについても(1)離散ラプラシアンの定式化,(2)グリーン行列または擬グリーン行列の計算,(3)(擬)グリーン行列を調べて再生等式の導出,(4)再生等式から離散ソボレフ不等式の導出,(5)グリーン行列の対角線値を調べることによる最良定数の計算,(6)グリーン関数の断面を調べることによる最良ベクトルの計算,といった手順で研究を進めていく予定である.
離散系に加えて,連続系,特に多変数の場合についても重調和作用素,多重調和作用素,熱作用素,高次熱作用素などの偏微分作用素についても適切な境界値問題を設定し,対応するグリーン関数の再生核としての性質を調べる.次に再生等式からコーシーシュワルツの不等式やヘルダーの不等式を通して,ソボレフ不等式を導出する.最後にグリーン関数の対角線値や断面を調べることによって最良定数や最良関数を厳密に計算する.
本研究結果は,数学会や応用数理学会などの学会または関連する研究会や国際会議で発表する予定である.また数編の論文として,数学や応用数学の関連する雑誌に投稿する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の研究機関が2017年4月1日付けで日本大学生産工学部教養・基礎科学系から津田塾大学学芸学部情報科学科に変更となった.これに伴い,2016年度,特に2017年3月に予定していた数学会や応用数理学会研究分科連合発表会などの学会出張を取りやめた.また,研究分担者との研究打合せを実際に出張する代わりにメールベースで行った.以上のように出張費を中心として研究費に未使用額が発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
前述の通り,研究代表者は2017年4月1日付けで津田塾大学学芸学部情報科学科に異動した.津田塾大学での研究環境の整備を行う.また研究の最終年度であり,論文投稿を行い,研究代表者(東京)および研究分担者(大阪)の研究打合せを綿密に行う.また2016年度に得られた研究成果や本年2017年度の研究成果については,国内の数学や応用数理関係の学会や研究集会,そして海外での国際会議でも発表予定である.出張旅費については,例年より多く使用予定である.
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