研究課題/領域番号 |
25400147
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
中村 豪 愛知工業大学, 工学部, 准教授 (50319208)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 複素解析 / リーマン面 / クライン面 / 極値的円板 / 自己同型群 |
研究実績の概要 |
2以上の種数をもつコンパクトリーマン面は、その種数にのみ依存して定まる最大半径の円板である極値的円板を埋め込むことができるとき極値的リーマン面という。種数3の極値的リーマン面は等角同値を除いて1726種類存在することが知られている。このうち2個以上の極値的円板を埋め込めるものはこれまで得られたより3種類多く、全部で19種類であることが判明した。この3種類の極値的リーマン面にはちょうど2個の極値的円板が埋め込まれ、その埋め込み位置を求めることができた。自己等角写像による極値的円板の中心点の像を考察することにより、この3種類のリーマン面の自己同型群はすべて位数2の巡回群と同型であることが得られた。また、この3種類はすべて超楕円的リーマン面であり、全部で8個存在するワイエルシュトラス点の位置を得ることができた。このうちの1種類は対称リーマン面であり、他の2種類は互いに反等角同値である。 種数2の場合においては、等角同値を除いて全部で9種類の極値的リーマン面の存在が知られている。このうち対称的なリーマン面1つを考察し、自己等角写像と反自己等角写像のなす群は3つの位数2の巡回群の直積であること、位数2の反自己等角写像であるシンメトリーは4つ存在することが判明した。また、このシンメトリーによるリーマン面の商空間は、境界付き曲面や向き付け不可能な曲面になることが得られた。 種数2の極値的リーマン面を与えるフックス群は(2,3,18)型の三角群の部分群である。これを利用して先の例の極値的かつ対称的リーマン面から複素球面へのBelyi関数(分岐値を3点もつ正則写像)を構成し、このリーマン面上にBelyi関数から定まるdessin d’enfant(2色の頂点をもつある有限な閉グラフ)を描くことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究対象である種数が2と3の極値的リーマン面、種数が3から6までの極値的クライン面は非常に多く存在するが、これまでに確立した手法をコンピュータによって個々の曲面に適用することにより極値的リーマン面の対称性の構造、タイヒミュラー空間内の分布、dessin d’enfantとBelyi関数の構成など目的の多くは達成に向けて概ね順調であると言える。具体的には次の通りである。1. 種数が3のときに極値的円板を2個埋め込める極値的リーマン面があらたに3種類見つかり、このうちの1種類は対称的であることが得られた。これは対称性の構造を研究する上で重要な結果である。現段階では9種類存在する種数2の極値的リーマン面の対称性について調べているが、この手法は種数3の場合にも適用できると思われる。2. 極値的リーマン面のタイヒミュラー空間における分布を調べるために、種数2の場合を考察している。前年度に得られた結果として、ある1つの極値的かつ対称的リーマン面に対してフックス群の標準的生成系を構成し、7つのトレースパラメーターを用いてタイヒミュラー空間内での座標を与えている。今年度はその座標の表現式を簡明化している。標準的生成系の同様の構成方法で他の極値的リーマン面の座標の計算を進行中である。3. 種数が2のある極値的リーマン面に対して、フックス群の基本領域として双曲正18角形を取り、辺の対応関係から自然に導かれるdessin d'enfantとBelyi関数を構成することができた。この手法は他の極値的リーマン面にも適用することができる。4. 種数3の向き付け不可能な曲面である極値的クライン面は11種類存在する。この解析は次年度以降に行う。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は研究の拠点をフランスのパリ第6大学内にあるInstitut de Mathematiques de Jussieu - Paris Rive Gaucheに移し研究課題の遂行を目指す。ここでは数学の諸分野において第一線で活躍されている研究者が多く、本研究課題について有益な助言や示唆を受けることが期待できる。毎週開かれている複素解析と幾何のセミナーでは世界的に有名な研究者の講演を聞くことができるため、最新の情報を収集し研究結果を洗練していく。また、この大学の充実した図書・雑誌を活用して研究を迅速に進め、研究成果発表のための十分な準備を行う。また、近隣の大学で開催される研究集会にも出張旅費を活用して参加し交流を広げて研究に深みをもたせる。地理的優位性を活かしてヨーロッパ内の研究者とも面会する。このために海外出張旅費を用いる。特にこれまでに共同研究を行ったことのある研究者からは多くの知識や助言を受けたい。日本にいる研究協力者とはメール等を利用してこれまで通り密接に連絡を取り合い、問題解決に向けて協力をお願いする。研究遂行の上で購入が必要な専門書は物品費を用いて随時購入していく。 次年度は特に9種類存在する種数が2の極値的リーマン面に対して、その対称性の構造を解析し、種数が3の場合にも取り掛かる。また、種数2の場合はフックス群が(2,3,18)型の三角群の部分群になる性質から自然に導かれるdessin d'enfantとBelyi関数を構成する。種数2のコンパクトリーマン面のタイヒミュラー空間内における極値的リーマン面の分布は、これまで通り購入済みのノートパソコンを活用して座標計算を続けていく。この他に向き付け不可能な種数3の極値的クライン面の解析にも着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として79,534円が生じている。これは大学内の業務を優先したため、研究打合せのための海外出張を行わなかったことに起因する。この代わりとして国内の研究者との研究打合せを計画より多く行うことができ、国内出張旅費として有意義に使用した。この計画していた海外出張の旅費と国内出張旅費の差額が次年度使用額の生じた大きな理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は研究の拠点をフランスに移しているため、ヨーロッパ内のリーマン面・双曲幾何関連の研究者と面会し、助言を受ける機会を大いに持ち研究課題の遂行に努めたい。次年度繰越金はそのための出張旅費に充足する。計画している出張の一つとして、7月上旬にUniversite Paris-Sud (Orsay)で開催される研究集会Classical and quantum hyperbolic geometry and topologyを挙げておく。この他にヨーロッパ内で開かれる各種の研究集会・セミナーに随時参加し、出張旅費として使用する計画である。繰越金額は7万円を超えており決して少なくはないが、十分に使用できる範囲内である。次年度の請求額40万円と合わせた使用計画は、図書購入による物品費として約8万円、フランス国内出張旅費として約15万円、フランス国外出張旅費として約25万円である。
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