研究課題/領域番号 |
25400147
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
中村 豪 愛知工業大学, 工学部, 教授 (50319208)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 複素解析 / リーマン面 / クライン面 / 極値的円板 / 自己同型群 |
研究実績の概要 |
閉リーマン面のモジュライ空間上の関数として、各リーマン面の最大単射半径を値とするものを考察した。この関数が最大値をとる閉リーマン面は、これまでに研究してきた極値的なものである。従ってこの関数を調べることは、極値的リーマン面のモジュライ空間での分布を解明することにつながる。このことから、これまでに得られた結論としてこの関数の最大値は有限個の閉リーマン面でとり、種数が小さい場合においてはこの個数は判明している。また、漸近的な数も得られている。この関数を具体的に記述するために、タイヒミュラー空間上の関数とみなし、そこでの座標系を用いることを考察した。特に種数が2の場合はタイヒミュラー空間の大域的座標は7つの測地的長さ関数を使うことにより得られているので、これを用いてこの関数を表現することを試みた。ここでは閉リーマン面を与えるフックス群の生成元が重要であり、4種類の生成元とその基本領域の性質からある程度までの表現を得ることができた。また、閉クライン面のモジュライ空間に対しても同種の関数が定義できる。この場合も最大値を与える閉クライン面は有限個であり、種数が小さい場合は具体的にその数は判明している。この他に、写像類群の表現についても研究を行った。種数2の閉曲面の写像類群に対して、その有限部分群の表現を5種類のデーンツイストにより具体的に与えることができた。また、開リーマン面における開集合の強い円板的性質を研究した。これは閉円板が連続写像の像として開リーマン面に埋め込まれ、かつ閉円板の内部が正則写像の像として埋めこまれるとき、その境界が領域に埋め込まれるならばその内部も同じ領域に埋め込まれるという性質である。開リーマン面における開集合の強い円板的性質が正則一様近似を導くのはどのようなリーマン面であるかを研究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は東北大学、大阪市立大学、名城大学でのセミナーそして山口大学での研究集会で研究成果発表を行った。そして研究打合せを積極的に行うことによって、これまでに得られた結果と今後の展開について多くの専門家からアドバイスをいただくことができた。これによって本研究課題は達成に向けての足掛かりを得ていると思われる。本年度の進捗状況は次の通りである。1.極値的リーマン面がモジュライ空間においてどのように分布しているかを調べる問題について、モジュライ空間上の関数として最大単射半径を与えるものを考察した。特に種数が2の閉リーマン面のモジュライ空間の場合に対して、フックス群の生成元を用いることによってある程度までこの関数の具体的表示を得ることができた。2.タイヒミュラー空間における極値的リーマン面の分布を解析するために、写像類群の分類について考察した。特に種数2の閉曲面の写像類群における非自明でかつ位相的共役を除いたすべての有限部分群のリストがBroughtonによって知られている。これを用いて有限部分群の生成系を5種類のHumphries生成元の積によって表すことができた。3.開リーマン面の開集合に対する強い円板的性質を調べる問題について、この性質は単葉型の開リーマン面の場合についてはその開集合の補集合の各連結成分がコンパクト集合でないことが同値な条件として得られている。この単葉性という条件の正当性を調べることが重要であることがわかった。4.Belyi関数の構成問題について、コンピュータ上で既に得られている種数2と3の対称リーマン面に関するデータを活用中である。以上により本研究課題はおおむね順調に進んでいると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は本研究課題の最終年度となる。このため、これまでに得られた成果を踏まえつつ、研究課題の残りの問題を着実に解決していきたい。方策としては、これまでと同様に研究協力者と密接に連絡をとりながら、問題点が現れたときには随時アドバイスを求める。特にタイヒミュラー空間論に関わる部分に関しては、国内の専門家を中心に意見を求めたい。また、国内外のリーマン面や双曲幾何に関するセミナーや研究集会に積極的に参加し、多くの研究者から最新の情報を得る。定期的なセミナーとして、名城大学で毎週開催されているポテンシャル論セミナーに参加し、広い見地からのアドバイスを受けたい。国外においては、フランスの大学で開催される写像類群の表現に関する集会に参加する予定である。一昨年度にこの大学の複素解析と幾何のグループと面識をもつことができたので、この関係を継続して今後もアイデアを教授していただく。また、スペインの研究協力者からもBelyi関数、Dessin d’ enfantの知識を教授していただく。この他として、必要に応じてリーマン面論、代数曲線論、双曲幾何学、離散群論、複素解析幾何学の文献を購入して研究を続け、内容を深化、発展させていく。本研究課題には非常に多くの閉リーマン面、閉クライン面の例とそれに関連するデータがあるので、これまでに購入したコンピュータ用いてプログラムの改良を行いながら、対称性をもつ曲面と自己同型群の解明を迅速に進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が約8万5千円生じている。当初はスペインまたはフランスの研究者との研究打合せを計画していたが、大学業務等の理由により研究打合せのための海外出張を行うことができなかった。この代わりとして国内の研究集会での研究打合せを予定よりも多く行うことができ、国内出張費として有効に活用できた。この差額が次年度使用額として生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度はフランスのパリ第6大学に所属する複素解析と幾何のグループと面会し、研究打合せを行う。このための海外出張旅費の一部にあてる計画である。残額は約8万5千円であり、額としては少なくはないが、十分に使用可能な範囲であると考える。次年度は最終年度なので、これまでの研究成果を広く発表するための出張旅費を多く使用する計画である。
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