研究課題/領域番号 |
25400148
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
久保 明達 藤田保健衛生大学, 医療科学部, 教授 (60170023)
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研究分担者 |
林 直樹 藤田保健衛生大学, 医療科学部, 講師 (00549884)
梅沢 栄三 藤田保健衛生大学, 医療科学部, 准教授 (50318359)
星野 弘喜 藤田保健衛生大学, 医療科学部, 准教授 (80238740)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 腫瘍侵潤現象 / 多重スケール現象 / 数理モデル / 数学的特徴づけ / シミュレーション / 解の可解性 / 多重尺度項 / 非線形発展方程式 |
研究概要 |
1. 研究代表者はポーランド・クラクフで8月5-9日に行われた、The 9th ISAAC congressに成果発表と情報収集のため海外出張を行った。続いて9月20日かけてEcole Central de Lyonに滞在し、Jean-Pierre Loheac氏をはじめとする研究グループと、本研究課題に関連した非線形発展方程式の解の性質について研究討論を行った。 2. 研究代表者らは大学内の共有スペースに、数値解析や情報収集のためのコンピュータ環境(ハード、図書)を整え、研究室の学生の協力を得て、腫瘍侵潤モデルのシミュレーションのための数値アルゴリズムの開発と数値実験を試み、数理医学の最新の動向を調査した。さらに研究分担者や連携研究者らと、現在行っている非局所腫瘍侵潤モデルの数値シミュレーションについて検討し、研究打ち合わせと研究討論を行った。 3. 研究代表者は目的(1):腫瘍侵潤現象を周辺組織との相互作用が関与する多重スケール現象と捉え、これに従ってM.Chaplainらによって空間1次元非局所腫瘍浸潤モデルが提出されたが、中心的役割を負う多重尺度項は陰的に与えられ、これに妥当性のある数学的条件と枠組みを与えるため、本課題研究最大の困難点の克服のため目的(2):多重尺度項を特異積分作要素とみなして多重スケールの数学的特徴づけを試み、(3):一連のこれまでの彼らの腫瘍浸潤モデルを含めて、時間大域解の可解性と性質について統一的に議論する、という観点から多重尺度項の適切な枠組みと属すべきクラスについて検討と考察を行った。 4. 研究代表者と研究分担者・連携研究者は、分野横断的に研究者を招聘し藤田保健衛生大学数理講演会平成26年2月20日と3月26日に開き、生物・医学関連の数理的研究の最新の動向を調査すると共に、物理・生物・医学の各領域における情報交換と研究打ち合わせを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. フランスにおける共同研究において、腫瘍方程式に関連した我々の非線形発展方程式のディリクレ境界値問題の爆発解を構成した。これは、細長い物質のエネルギーの散逸を伴った振動現象に対応している。一方で、この研究の過程で微分方程式中に境界値に依存した項が現れるものについて、境界値制御問題として扱うことで、解の振る舞いを軸にして境界値を分類する問題として設定する妥当性が得られた。 2. 実際これを、腫瘍侵潤モデルの数値シミュレーションによる境界値問題の解の安定・不安定性の分類の問題としてとして議論した。一方、進行波による腫瘍侵潤モデルのシミュレーションにおいて、健常組織との間に押し出された侵潤腫瘍細胞が高密度の状態で挟まれる典型的現象を、δ関数の効果を持ち込んだ数理モデルによってシミュレーションに成功した。困難点は、初期値をどのように与え、δ関数の効果をどのような関数で与えるのが適切であるかであったが、相転移の議論によるδ関数の近似を2種類の未知関数の連立させて組み込むことで、生体現象として自然な形でδ関数の近似を与え、これを解決することができた。 3. 偏微分方程式をフーリエ変換して得られるξ‐空間において特異性が現れる既存の方程式についてそうしたクラスの与え方について、バーガーズ方程式の取扱や、分数べきの拡散項を持つような方程式(ある種のランダムウォークを時間と空間を適当な離散化によるモデルを連続化した得られる方程式)にこうした項が現れることが知られていることが情報収集によってわかり、こうした先行結果に沿った数学的特徴づけが大域的多重尺度項についても有効であるという結論に至った。 4. 数理講演会等において、流体や走化性の立場からも3.の知見が得られ、多重スケール腫瘍モデルをよりマクロな現象を扱う上で、こうした研究結果との関連性について検討し議論することは重要である。
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今後の研究の推進方策 |
上記1. において、関連する先行論文として1979年Y. Ebihara, J. Diff. Equ. 34, がある。この問題設定の枠組みの中で我々の問題を捉えることができ、解の存在定理の枠組みのみならず境界値制御問題として、解の安定、不安定性について議論することは妥当性があるといえ、研究代表者らは数値解析、理論解析両面からこの方向性の議論を深める。また、生体現象との関連では、細胞などの異常な集中が起こる場合は(不安定解)、境界上でも必然的に異常が観測できることを示唆しており、これは臨床応用上興味深く有用であり、臨床的制御の観点からも重要で、数値実験によってこれを議論する。このように扱っている腫瘍方程式を境界上の制御問題として設定することで、腫瘍細胞の集中と拡散を制御し、臨床的扱いに寄与できるものと考える。 研究代表者は、上記3.で述べた先行結果に現れる様な大域項の数学的扱いを参考にし、多重スケールモデルのネルギー評価式を得ることを目標にして、その数学的構造を明らかにし、林とともに医学的意味づけや導出原理について考察する。以上により目的(1)-(3)を達成する。 研究代表者らはこうして、多重スケール腫瘍侵潤現象を記述する方程式の数学的に適切な枠組みを得たのち、それが形成する進行波についての数値解析を梅沢、星野らと実行する。δ関数を伴った進行波については、昨年度の数値解析で得られた結果を引き続き代表者、星野が数値解析と理論解析を行い、医学の立場から林がこれに当たる。 研究代表者は年度始めに、分担者・連携研究者と研究上の調整行い、7月開催のAIMS Conferenceに参加し研究成果を発表すると共に、J.I.Tello氏との研究打ち合わせを行う。年度末にかけて、分担者・連携研究者とともに研究集会を企画しこれまでの得られた結果発表と研究打ち合わせ、最新の情報を収集する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究分担者の旅費等に使用する予定だった予算が以下の理由で十分に使用されなかったことが主な理由である。 まず、本課題研究に関連する研究者を招聘して行った講演会が、講演者の都合で2回に分かれてしまい、一方は例年通りであったがもう一方が3月末になり予算の残額と使用予定の関連の見極めが難しかったことが挙げられる。次に、一般的に申請者を含め研究分担者が予算を使用するに際し、他者への配慮の余り、残額を過小評価して使用計画する傾向にあることがもう一つの要因の一つに挙げられる。このような傾向は、旅費の計算が、書類を提出した後に事務システムの過程で初めて支出経費が明らかになり、機器等の購入と比べ正確な残額の予想がつけづらいことも原因に挙げられる。しかし、本年度から導入される新事務システムは、前もって出張者本人がコンピュータ上で費用を正確に知ることが可能になり、こうした残額の過小評価がなくなると思われる。 研究分担者の梅沢は5月に海外の国際学会に参加し成果を発表し研究討論を行うなど、本年度割り当て分と繰り越し分を合わせることで、これを遂行するための渡航費、宿泊費、学会参加費を賄うことで、前年度繰越分をさらに効果的かつ有効に使用する予定である。また同様に星野、林もすでに国内外の学会への参加予定を明確に計画しており、これに前年度繰越し分を加算し、より効果的に使用することができよう。また、以上のことは本年度より導入された出張手続きの新システムにより、計画的使用がより促進されよう。 結局前年度繰越分を含めると、前年度と今年度の予算総額が入れ替わった結果になり、課題研究期間中の中間年度は当該研究が最も活発に遂行される年度でもあり、申請時の計画を基本的に変更することなく、より綿密な打ち合わせにより残額の過少評価をなくし、積極的にこれを遂行することによって、より適正かつ有効な使用ができると考える。
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