研究概要 |
非線形分散型方程式の初期値問題の適切性に関して, 調和解析的手法を用いて研究を行い, 以下の二つの結果を得た. 一つ目は, 加藤勲氏と共同研究で行った空間次元が四次元以上の場合のZakharov方程式の臨界空間の滑らかさを持つ小さな初期値に対する時間大域的適切性である. Zakharov方程式はプラズマ物理に現れる方程式で, 非線形双曲型波動方程式と非線形シュレディンガー方程式の連立系である. 異なる性質の波動が相互作用する点が特徴であり, その性質を上手く利用して評価する点が難しい点である. これまで数多くの研究がなされているが, 臨界空間での適切性は未解決な問題であった. 本研究では, 空間次元が四次元以上という低次元の場合に比べると扱いやすい場合ではあるが, はじめて臨界空間での適切性の証明に成功した. 非線形項の持つ微分の損失を回復するための評価として, この分野の最新の手法であるUp, Vp空間の理論を用いた. この際に, 異なる性質の波の相互作用の影響で通常では存在しない難しさが表れる. これを克服するために, 解を構成する空間として, V2に基づく空間とストリッカルツ評価型の空間の共通部分を用いるのが主なアイデアである. 二つ目は, 加藤孝盛氏と共同研究で行った5次の修正KdV型の方程式に対する, 周期境界条件下での時間局所適切性の研究である. 5次の修正KdV方程式に対しては同様の結果を既に得ていたが, それを含むより広いクラスの型の方程式に対しても, 共鳴部分の相殺条件を満たすような係数である場合には適切性が成り立つ事を発見した. 主な手法は正規化法と言われるものであるが, これを繰り返し用いることによって膨大な数の場合分けが必要となり, それらを適切に分類してその特徴に応じた評価をすることが証明の鍵である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5次のKdV型方程式に対する共鳴部分の相殺条件を利用した適切性の結果を得たことにより,「共鳴現象の解析」のための足がかりを得たと言える. 今後, この考えをより広く応用して様々な方程式に対して適切性や漸近挙動の研究を行い, 共鳴現象との関連を解明していくことにより研究が達成されると見込まれる.
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今後の研究の推進方策 |
適切性に関しては, 正規化法のみならず, 級数解を用いる方法やエネルギー法など様々な手法を試みつつ共鳴現象との関連を調べる予定である. そして, 滑らかさの低い場合や重み付き関数空間などの初期値に対する場合, あるいは, 初期値の条件は緩和する代わりに方程式のクラスを広げる問題などを考える. また漸近挙動については, 適切性の研究においては滑らかさに関する評価が主であったのとは異なり, 時間減衰評価と共鳴現象の関係も調べることが課題である.
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