研究課題/領域番号 |
25400160
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森本 芳則 京都大学, 人間・環境学研究科, 名誉教授 (30115646)
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研究分担者 |
清水 扇丈 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (50273165)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ボルツマン方程式 / 衝突積分項 / 非切断近似 / 平滑効果 / Toscani 型距離 / Wasserstein 距離 / 測度解 / 超局所解析 |
研究実績の概要 |
空間一様なボルツマン方程式の弱解を前年度につづき,確率測度の枠組みで考察した。衝突項の角度因子の特異性について切断近似をしない場合,マクスウェル型を除き,解の一意性は一般には成立しないことが知られている。しかしながら,ハードポテンシャルの場合は,角度因子の特異性に応じた適当なオーダーの速度モーメントに関する局所時間積分が有界でエネルギーを保存する任意の弱解は,実は時間正で直ちにすべてのオーダーの速度モーメントが有界であるという性質をみたすことが明らかになった。これにより,初期値が単独のディラックマスでないならば,ほぼ,すべての弱解(測度解)が時間正でシュワルツ急減少関数空間に属することが示された。ソフトポテンシャルの場合も,解の一意性に拘わらずすべての弱解について,初期値のモーメント有界性が保存されることが明らかになり,ハードポテンシャルの場合に対応する解の平滑化に関する一般的な命題が得られた。 本研究では確率測度解をフーリエ変換像を通して解析してきた。今までエネルギー有界(2次モーメント)までの確率測度しか,そのフーリエ像の特徴付けができていなかったが,フーリエ像の対称な高階差分とその積分を考察することにより,任意のオーダーのモーメント有界な確率測度をそのフーリエ像で特徴付けすることに成功した。これにより,任意の指数についてMonge-Kantorovich-Wasserstein 距離と同等な(一般化された)Toscani 型距離が得られた(指数2は,1999年にToscani-Villaniにより示され,指数2より小さな場合は前年度までに代表者らの研究で明かとなっていた)。この特徴付けを用いて,マクスウェル型空間一様なボルツマン方程式の測度解は,初期値がp次モーメント有界ならば,時間正でp次モーメント有界な可積分関数に値を取る時間に関する連続関数であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
空間一様なボルツマン方程式については確率測度解の枠組みで、解の存在と平滑効果がソフトポテンシャル、マクスウェル型、ハードポテンシャルの場合のいずれについても、一般的な仮定の下で示された。残された課題は、マクスウェル型以外の場合に、解の一意性を自然な仮定のもとで示すことである。ハードポテンシャルの場合について、弱解に対するエネルギー保存則などの僅かな仮定のもと、解の任意のオーダーのモーメント有界性が従うことが明らかになり、一意性を考察すべき弱解のクラスは絞ることが可能になりつつある。 空間非一様な(マクスウェル型)ボルツマン方程式に対しても、速度変数については一般化されたToscani 型距離のような弱い位相での取り扱いが重要であるが、衝突積分項の空間変数に関する強い非線形性が現在のところ克服すべき課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
空間一様なボルツマン方程式の解の一意性は、1977年の田中洋氏のWasserstein 距離を用いた先駆的な研究以降も、現在に至るまで確率論的アプローチが続いている。初期値に対して、ソフトポテンシャルの場合はエントロピー有界性を、ハードポテンシャルの場合は指数オーダーの減衰を仮定した部分的な結果が得られており、Monge-Kantorovich-Wasserstein 距離と同等な(一般化された)Toscani 型距離を用いた解析的な方法でこれらの結果の別証を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
外国人共同研究者である仏ルーアン大学理学部の Chao-Jiang Xu 教授と28年度、2週間程度の共同研究を現地で行うことを予定していたが、大学キャンパス付近でのテロ事件発生(昨年7月末)等の治安の悪化により渡航を遅らせることにした。
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次年度使用額の使用計画 |
29年度に代表者の海外渡航あるいは外国人共同研究者の国内招へいにより、共同研究を実施する。
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