平成27年度は主に以下の2項目に関して研究成果を得た。 (1)劣線形増大度を伴う半線形熱方程式の解の長時間挙動の分析 劣線形増大度を伴う半線形熱方程式は常に時間大域解を持つことが知られており、そのような時間大域解は定常解へと収束する。ここではそのような定常解のリャプノフ安定性に対する解析を行った。具体的には、定常問題の自明解は不安定であること、符号変化する定常解の内、自明解にエネルギー空間上で近いものに関しては不安定であること(それ以外も漸近安定でないことは分かる)、さらに定符号解は指数安定であることを証明した。また指数安定な定常解への収束速度に対する詳細な解析を行い、最適な指数減衰の指数を特定した。証明の手法は各定常解に於ける線形化作用素のスペクトル解析、さらにエネルギー法と比較原理を用いた劣解・優解法、楕円型方程式の正則性理論等に基づく。これらの研究は、梶木屋龍治氏(佐賀大学)との共同研究として行い、成果は学術誌に発表されている。 (2)非凸型汎関数の勾配流に対する大域的変分原理の構築 異常拡散を記述する発展方程式として、非凸型汎関数の勾配流がしばしば現れる。近年、勾配構造を持つ発展方程式に対する大域的変分原理(軌道ごとに値を取る汎関数に対する変分原理)としてWED汎関数と呼ばれる汎関数を用いた最小化問題が研究されてきたが、全ての研究は主に(λ-)凸型汎関数を対象としており、(λ-凸性から逸脱するような)非凸型汎関数に対する勾配流は理論の対象外となってきた。ここでは、これまで主に大谷光春氏らが開発してきた非線形発展方程式の非単調摂動理論と発展方程式に対する大域的変分原理を融合させることで、そのような非凸型汎関数の勾配流に対して WED 原理を拡張した。これらの結果は、Ulisse Stefanelli氏(オーストリア・ウィーン大)との共同研究として学術誌に発表された。
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