研究実績の概要 |
過去30年以上にわたって推進してきた無限次元線形系に対する境界安定化論,関連する関数解析学に関して,整合性のある論理体系をまとめる総括的研究を行い,数学叢書として出版予定である.具体的な内容は,以下の通りである:(1) 線形系安定化論については,解析半群を生成する放物系を始め,より広いクラスの C_0-半群を生成する線形系(時間遅れを伴う関数微分方程式等)に対する統一された安定化論を確立した.そのようなより広い線形系に対する抽象的で統一的な安定化論について,実現可能で放物系に比して幾分制約的な有限次元動的安定化補償器を構成した.他研究との本質的な差異は,被制御系に関わる何らの有限次元近似も仮定しないこと,係数作用素に関わる Riesz基底の存在も,有限差分近似や,有限要素近似等による有限次元近似系の存在をも仮定しないことである.(2) 制御系の構成には不適切な問題が現れ,筆者の提案による数値近似アルゴリズム (MCSS, 1994) がある.本年度研究での改良研究成果を,叢書の 1章に加えることにした.(3) 有限次元安定化論の成立は旧く (1967),その後様々なアプローチが提案されたが,完全に新しい視点からの安定化論を提唱し,系の安定マージンが,従来の極再配置論や最適制御論に基づく場合と比較して,より小さく選べる特性を見い出し,方法論としての無限次元安定化論との整合性を示した.(4) 飽和特性のある非線形系の第1次近似として線形系を考察する場合,線形系の出力安定化についての研究成果を叢書に含めた.これは上記 (1)における可観測性,可制御性が満たされない制御系においても,少なくとも出力の安定化が保証される制御系存在すること,温度や波動等,系の状態そのものの安定化までは数学上は保証しなくても,上記非線形特性によりそれらが現実には爆発することがない点で.十分な意義がある.
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