研究課題/領域番号 |
25400165
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
杉江 実郎 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (40196720)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 関数方程式論 / 大域的漸近安定性 / 一様漸近安定性 / 生態系モデル / 振動理論 / 差分方程式 / 国際研究者交流 / 中国 |
研究実績の概要 |
本年度に国際学術誌に掲載済みまたは掲載決定済みになった研究内容は以下の通りである。
1.Lotka-Volterra 捕食者・被食者系は構造不安定であり,何らかの変化がこの系に与えられると,その影響は未来永劫に続くことになり,決して元の状況には戻らないことが良く知られている。しかし,実際の生態系には柔軟性があり,少々の変化が生じても,それを元の状況に戻そうとする力が働くことが多い。本研究では,このギャップを埋めるため,環境の時間変化にその一因があると見做して,被食者の出生率と環境許容力に季節的変化を加えたモデルを提案して,内部平衡点が大域的漸近安定になるための必要十分条件を得ることに成功した(雑誌論文の欄の1番目)。証明方法において,今までに得た線形振動子の平衡点の大域的漸近安定性に関する研究成果が大いに役立った 2.本研究によって,減衰係数に関するある2重積分が収束するか発散するかが,線形振動子・半分線形振動子・優線形振動子の平衡点の大域的漸近安定性の重要な決定要因であることが判明した。しかし,具体的に減衰係数を与えたときに,その2重積分の収束・発散を判定することは一般には困難である。平成27年度は,減衰係数の形をいくつかに分類し,平衡点が大域的漸近安定になるか否かをより簡単に判定できる諸結果を得た(雑誌論文の欄の2番目)。 3.線形連成振動子は質量行列・減衰行列・剛性行列を用いてベクトル微分方程式で表示できる。特に,減衰行列が質量行列と剛性行列の線形和であるとき,そのモデルは線形粘性減衰であると呼ばれる。殆どの研究では,質量行列・減衰行列・剛性行列は定数行列であり,材質の劣化や季節による環境変化などは考慮されていない。本研究では,その点に着目して,線形粘性減衰の減衰行列の時間変化を許す場合にも適用可能である平衡点の大域的漸近安定性に関する結果を与えた(雑誌論文の欄の3番目)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究開始から3年目に当たる平成27年度にも,得られた研究成果は国際的に評価の高い専門誌に掲載済みまたは掲載決定(Web上で公表済み)された3編として結実した。本科学研究費の支援によることを明記した原著論文は7編となったことからも,本研究は十分良好な進捗状況にあると言える。また,現在,4編の学術論文を国際誌に投稿・審査中である。そのうちの1編は研究協力者(呉)との共著論文であり,今後の発展も期待できる。最終年度(平成28年度)が終わる頃には,本研究に係る研究成果は相当数に上るものと予想できる。さらに,学会発表の欄にも挙げたように,今年度に得られた成果報告は招待講演7件を含む計25件に達している。それら招待講演を聴講してもらった研究者とも将来的な共同研究の可能性や方向性について検討できたことも今後の本研究の進展に寄与するものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には,交付申請書の「研究計画・方法」に記載したタイムテーブルに沿って,本研究を進めたい。最終年度となる平成28年度は今までに得られた研究成果を基にして,その発展に努めたい。具体的には,反応拡散方程式の定常解に焦点を絞った研究やインパルシブ効果を考慮した振動子の漸近安定性理論などが挙げられる。また,引き続き,生態系モデルの内部平衡点の大域的漸近安定性についても研究を進める。特に,平成28年度はMay&Andersonモデルの拡張について考究したい。さらに,交付申請時には挙げなかったが,平成27年度後半から開始した差分方程式の振動性に関する研究にも力を入れたい。現在までの達成度の欄にも述べたように,予想以上に進展したテーマがある半面,本研究期間も残り1年となったため,当初に立てた計画に一部が予定通りに進まない事態が生じるかもしれない。その場合は,本研究から派生した別の研究テーマをさらに特化して,それらが今後の新研究に繋がるように全力を尽くしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度も本科学研究費により,中国から3名の研究者の旅費を支援できた。しかし,最近,中国政府の施策のため研究者を招聘することが難しくなってきている。例えば,夏季休暇などの長期休暇期間以外に日本へ出張するためには,一般の教員でさえ所属大学が管理する公的パスポートを取得しなければならなくなった。しかも滞在日数は5日以内と決められたようである。長期休暇期間においては私的パスポートの使用を認めるようであるが、これでは教育・研究実績には入らないとのことである。また,中国人研究者は渡航するためには相当以前からその計画を勤務大学に提出しなければならない。このような理由により,研究者を招聘することができなくなった事例が多く生じた。そのため,経費を平成28年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の理由から,今年度はできるだけ早く招聘計画を立て,繰越金をその渡航費等に充当したい。また,平成28年7月に差分方程式に関する国際研究集会``The 22nd International Conference on Difference Equations and Applications''が大阪で開催される。本研究課題とも密接に関係している。また,私は組織委員会には入っていないが,本科学研究費の研究協力者らが直接にこの国際研究集会に携わっているので,外国からの招聘者への渡航旅費等に関して十分な経費支援をしたいと考えている。尚,平成28年度が本科学研究費の最終年度であるから,繰越金以外は当初の計画通りに予算執行を行う。
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