研究課題/領域番号 |
25400171
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
坂元 国望 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40243547)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Turing 型不安化 / 拡散輸送 / 境界での非対角型物質輸送 / 臨界曲線 / 波動モードの不安定化 / 楕円型固有値問題 |
研究概要 |
複数の化学種が関わる状況において,領域の内部での物質輸送が拡散効果のみに依存し、領域境界において非対角的な相互作用によって物質輸送が行われる系(細胞質・細胞膜の関係において細胞質内の反応を考慮の対称から除外した場合が典型な例)の数学的モデルを数理解析的視点から理論的に解析した。細胞レベル・分子レベルにおいては、相互作用に関わる種間の拡散率には大きな差がないので、通常の閉じた系におけるTuring不安定化機構を直接的に適用するには難があった。レヴィン-ラパル等の研究者の研究成果に触発されて、2013年度は、上記の数理モデルにおいて相互作用に関わる化学種の全ての拡散率が等しい場合において、拡散誘導不安定化が起こることを数理学的に証明することに成功した。 具体的な結果の概要は以下の通りである。領域の形(細胞の形・容器の形)のみに依存する複素平面上の曲線Cで以下の条件を満たすものが存在する。(1)曲線Cは原点において虚軸に接し、実軸に関して対称である。(2) C は原点以外においては実部正の領域にある。(3)この曲線Cは虚軸上で定義され実軸に値をとる区分的に滑らかな関数のグラフとして表現され、複素平面を二つの開集合A(複素左半平面を含む領域)と開集合Bに分割する。(4) 上記数リモデルにおいて全ての化学種の拡散率が1の場合、領域境界で作用する物質輸送行列Jの全ての固有値が領域Aに属する場合には系は安定であり、Jの固有値のうち領域Bに属するものが少なくとも一つ存在する場合には系は不安定であり、Jの固有値が曲線C上に存在する場合は系は中立的であり振動モードの不安定化がおこる臨界状態にある。(5) 上記数理モデルにおいて拡散率がdの場合、(4) に述べた事はCをd分の1に縮小したものに取り替えて成り立つ。 この結果において、曲線Cは従来の不安定化理論における虚軸の役割を果たすものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
4種閉鎖系における定常モードの不安定化機構と波動モードの不安定化機構の仕分けが、当初予想していたシナリオよりも格段に複雑微妙であることが判明したため、現在のところ足踏み状態である。その代わり、開放系(領域境界での非対角物質輸送がある場合)において相互作用に関わる物質の拡散率が等しい場合におけるTuring型不安定化機構の解明に集中した。
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今後の研究の推進方策 |
閉鎖系におけるTuring機構の詳細な解析は、初等的ではあるが非常に大きな技術的困難に直面している状況である。この課題からは少し距離をおいて別の視点から眺めることによって困難打開の方策を探ることとする。 開放系におけるTuring機構の研究においては、2013年度の研究で得られた臨界曲線Cの具体的な記述を領域の幾何との関連から詳しく解明し、ここで得られた理論を現実的な系への応用を目指した準備を行う。 また、開放系に関する研究で得られた成果を、保存力学系の開放系バージョンに拡張することを試みる。ここで言うところの保存力学系とは、様々な現象を記述する数理モデルにおいて物質輸送の収支バランスを考慮した反応拡散系のあるクラスを指しており、驚く程多彩な挙動を生み出す可能性が秘められている事が近年の研究で判明してきており、開放系におけるTuring機構を拡張適用することにより、更なる発展が期待されと思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画では、2014年3月10日-12日に開催される予定であった国際会議(Nonlinear Dynamics and Stochastic Methods:From Neuroscience to Other Biological Application)に出席して研究情報の収集および研究打合せを予定していた。参加登録申請をして、出席許可審査の結果を待っていたが、会議開催の3週間前になっても通知がこないため、日程調整が厳しいこともあって当会議の参加を取りやめた。そのため、旅費の一部として使用を予定していた額が未使用として残った。 本年7月7日ー7月11日にスペイン・マドリッドで開催予定の国際会議(Aims Conference)に参加するための旅費の一部として使用する事としている。
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