本研究の目的は,波束変換を用いてシュレーディンガー方程式を一階の偏微分方程式に変換し,解の性質を調べることである.時間に依存する関数を適切に選んで,その関数により考えているシュレーディンガー方程式の波束変換を行うと,一階の偏微分方程式または主部が一階で低階項をもつ方程式に変換できる.得られた方程式を特性曲線の方法で解くことにより,波束変換による解の表現が得られる.この表現は,用いた特性曲線が対応する古典軌道となるため,物理的に自然である.本研究代表者たちにより独自に得られたこの表現により,本研究では次の結果を得た. (1)シュレーディンガー方程式の解がどこで滑らかであるかを調べる問題.指定された時刻での解の特異性(その点が滑らかであるかどうかということ)を,空間に関し2次より小さい増大度をもち,時間に依存するポテンシャルのシュレーディンガーに対して,初期値の波束変換により特徴付けた.調和振動子のポテンシャルに2次より小さい増大度の摂動を加えたシュレーディンガー方程式に対しても,同様の結果を得た. (2)変調(Modulation)空間上でシュレーディンガー方程式の解を評価する問題.空間に関して2次以下の増大度のポテンシャルもつシュレーディンガー方程式の解の変調空間ノルムを解の変調空間ノルムで評価することができた.先行研究では,ポテンシャルがある場合には大掛かりな方法を用いて部分的な結果のみを得ていたが,本研究では波束変換を用いた解の表現を変調空間で評価し,物理的に自然な方法で変調空間での有界性を得ている. (3)波束変換を用いた解の表現を用いて,時間に依存するポテンシャルをもつシュレーディンガー方程式の散乱理論を展開すること.短距離型の時間に依存するポテンシャルをもつシュレーディンガー方程式に対し,波動作用素の存在と値域の特徴付けを波束変換を用いて行った.
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