定数係数の線形消散項をもつ消散型波動方程式のコーシー問題の解は,急速に減衰する波動部分と拡散部分の和として表現できることが,2003年の論文において当報告者によって示された.従って,時間発展とともに,定数係数線形消散型波動方程式の解は拡散部分,すなわち,対応する拡散方程式の解に漸近する.この現象を消散型波動方程式の解の拡散現象と呼ぶ.時間または空間変数に依存する係数をもつ線形消散項の場合には,その係数の時間方向あるいは空間方向の減衰の度合いにより,消散項が依然として効果的となるか,あるいは非効果的となってしまい,コーシー問題の解は,それぞれ,対応する拡散方程式の解,あるいは波動方程式の解に漸近する,すなわち,解の拡散現象あるいは波動現象が期待される.これらの現象の解明が本研究の目的であった.解の拡散現象について,対応する半線形問題の半線形項の増大指数の臨界を求めることを通して,研究はかなり進展し,2015年までの若杉勇太氏(愛媛大学)との共同研究により,半線形消散型波動方程式系に対して,効果的な消散項の場合に,いくつかの状況の下での臨界指数を求めることが出来た.本年度には大きな未解決の問題として,効果的な消散項と非効果的な消散項が混在して現れる場合の半線形消散型波動方程式のコーシー問題の解の挙動について研究を進めた.論文として発表できるような新たな発展は得られなかったが,今後の研究の課題として興味のある問題が残った.しかしながら,これらのこれまでの半線形消散型波動方程式の解の挙動に関する研究成果は,スリランカにおける国際研究集会 WinC 2016 において Plenary Lectureを行う機会も持つことができ,これまでの一連の研究の総合的な報告を行い,今後に考えるべき未解決の問題についても提案をした.
|